1. 眼差しの先にあるもの - 04.平石公一-
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CRAFTSPEOPLE

眼差しの先にあるもの

80代のベテランから20代の若手まで、個性豊かな土屋鞄の職人。
それぞれ、どんな想いで鞄と向き合っているのでしょう。

昔からものづくりが好きだったという平石。土屋鞄で働く職人の姿に憧れ、20代半ばでその門を叩きました。新人の頃は、とにかく一人で一本つくれるようになりたくて、がむしゃら。でも、入社11年目を迎える今は、工房のみんなで力を合わせて鞄をつくることに、気持ちが傾いてきたようです。平石がそんな想いを抱くようになるまでには、どんな物語があったのでしょうか。


ここしかないと思えるほど、つくる姿が魅力的だった。


昔から、手で何かをつくることが好きだったんです。バイクをカスタマイズしたり、部屋をDIYしたり・・・。自分の部屋の壁を塗り替えた時は、ぐっと明るくなったのがうれしくて。家中の壁をどんどん塗って、家族にも喜んでもらいました。

手を動かすことを仕事にしたいなと思ったのは、26歳。システム系の会社に勤めていた頃です。自分だけで完結するものづくりに憧れて、最初は家具職人を目指しました。たとえば住宅にはたくさんの人が関わっていそうだけど、家具のようなサイズ感なら、なんとなく一人でできそう。そんな考え方でたどりついたのが、革製品。土屋鞄のWEBサイトを見つけた時、ここだと思いました。

当時のWEBサイトに、鞄職人たちの生き生きした姿を描くコンテンツがあったんです。それを読むと、同年代の若手職人たちが日々どんなことをやっているのかが分かって、すごく面白そうに感じられました。たまたま家から車で5分の近さだったこともあって、すぐ工房を見学に。想像した通り、なんだか部活みたいで楽しそうでしたね。でも、職人の募集はしていなかったんです。

だけどもう前の仕事は辞めてしまっていたし、他の会社もいくつか見たものの、どうしても土屋鞄が諦めきれない。そこで、創業者宛に手紙を書きました。これでだめならやりきったぞ、と思えるくらい熱意を伝えて・・・なんとか面接をしていただけることになり、入社が決まったんです。

まず配属されたのは、ランドセルの製造。そこでようやく「ランドセルをつくっているんだ」と知ったくらい、工房で何をつくっているかは見えていませんでした。それほど、つくっている人たちの姿が魅力的だったんです。老若男女を問わず、職人一人ひとりが目の前のものに向き合い、細部まで妥協しない。そんなかっこいい先輩方のいる土屋鞄なら、僕も成長できるんじゃないかと思いました。

速くきれいに、次の人のために手を動かす。


ランドセル製造では「速くきれいにできるのが良い職人だ」と、育てられました。ランドセルは特にたくさんの人が関わる鞄なので、そのスタンスが、より強く求められます。それからもうひとつ大事なのは、自分が担当する仕事をきちんと仕上げて、次の人にパスすること。そのリレーが、良いランドセルを生み出すのだと教わりました。

目的とやるべきことが明確だったから、自分の中にもすんなり落ちてきた。年の近い先輩に早く追いつきたいという一心で、がむしゃらに勉強し、手を動かしました。

「自分は、次の人のために作業をしている」という考え方を、会長や先輩職人から教えられてから11年。今も、それを実直にやり続けているだけなんです。つくる鞄の種類や自分のポジションは変わったし、技術も向上したけれど、ベースは何も変わっていません。ある意味で、やっていることはずっと同じ。今、僕が担当しているのは、大人の方に向けた鞄の製造・管理です。最近は、鞄をスムーズに量産するための“架け橋”みたいな役割にも挑戦しています。

鞄をつくる時にはまず、デザインをもとに、専門の職人がサンプルとなる鞄をつくります。僕はその細部や工程を見直しながら、無理なく製造できるようにサンプルを整えていく。そして、実際にお客さまの手元に届く製品をつくる、量産の職人に託します。こんなふうに、サンプル職人と量産職人の間をつなぐのが、架け橋としての仕事です。

僕がきちんとつくりやすい鞄に仕上げられれば、量産する職人たちの仕事はスムーズになり、より良い製品がつくれるはず。「つくるのが難しい」と「つくりにくい」は別なんです。つくりにくいものは、なかなか良いものにはなれません。

そのなかで難しくも面白いのは、土屋鞄のものづくりには“遊び”もあること。革は天然素材ですし、どれだけ気をつけても、ゆがみが出やすい素材。だからこそ、思い描いた形の鞄に仕上げるのが、腕の見せどころです。1mmのズレも許されない一方で、工程のどこかで調整をしていけるような余白もあって・・・その感覚が面白いんですよね。

たとえばパソコン作業のように、誰もが同じ0や1というデータを触るだけじゃない。職人がどう手を動かすかで、できあがる鞄の表情が変わってくるともいえます。自分たちの手だからこそ、つくれるものがあるように感じられるんです。

背筋を伸ばして、きっちりつくったものは、想いも届く。


土屋鞄に入った時は、早く一人で一本つくれるようになりたいと思っていました。それが、鞄職人としての最低条件だと思っていたからです。でも今は、お客さまの声にしっかり応えるために、チームのみんなと足並みを揃えていきたい。誰もがベテランと同等のクオリティでつくれるように。それぞれの仕事をもっとスムーズに進められるように。仕組みを整えていくのは難しいけれど、面白いです。

きっとそのために大事なのは、これまで以上に、自分も周りも学ぶこと。「親方の仕事を見て技術を盗むのが職人だ」という話はよく耳にするけれど、土屋鞄では、聞けば何でも教えてもらえます。研ぎ澄まされたベテランの技術が若手にしっかり受け継がれるように、“教える”という体制を整えているんです。

とはいえ、自分で見て考えてから、分からないところを聞くのが一番。最初から尋ねるだけでは入ってこない“何か”が入ってくるからこそ、成長できるような気がします。

ベテランの鞄職人たちは、音で周りが何をしているか分かるそうです。道具を動かす音を聞いただけで、周りの作業速度を感じられる。そんな人たちからは、自分も学ぶことがまだまだいっぱいあります。

たくさんの人に教わりながら、できることはずいぶん増えてきました。でも、入社2日目くらいに、ランドセル工房で仕事をした時のことは、今でも忘れられません。工房は、職人たちの働く姿がお客さまから見えるつくり。しかもあの日は、まだ経験が全然ないのに、お客さまの目の前の席でした。座った姿勢も手元も動作も、何もかもを見られているようで、ごまかしがきかないと感じたんです。

今いる工房はお客さまからは見えないけれど、いつでも誰かに見られていると思いながら、働いています。そう考えていると、背筋が伸びる。きっちり動けば、きっちりしたものができるんです。つくり手の想いは、お客さまにも伝わりますから。いつもそう意識しながら、手を動かし続けていきたいですね。


平石が手がける製品についてはこちら。


「レザーキャンバス」ができるまで


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