眼差しの先にあるもの - 07.笹川留美子-

STORIES
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CRAFTSPEOPLE

眼差しの先にあるもの

80代のベテランから20代の若手まで、個性豊かな土屋鞄の職人。
それぞれ、どんな思いで鞄と向き合っているのでしょう。

晴れやかな笑顔と快活な声で、自然と場の雰囲気を明るくする職人・笹川。そんな彼女は入社する前、さまざまな国を旅していました。その中で感じた思いを胸に、土屋鞄でものづくりの道を歩むことを決意。パートから正社員、そして現在では鞄製造リーダーとして職人歴12年目を迎えた笹川に、これまでの出会いや、職人としてリーダーとして、大切にしている思いを尋ねました。

晴れやかな笑顔と快活な声で、自然と場の雰囲気を明るくする職人・笹川。そんな彼女は入社する前、さまざまな国を旅していました。その中で感じた思いを胸に、土屋鞄でものづくりの道を歩むことを決意。パートから正社員、そして現在では鞄製造リーダーとして職人歴12年目を迎えた笹川に、これまでの出会いや、職人としてリーダーとして、大切にしている思いを尋ねました。



旅先での好奇心が、職人への第一歩。


旅先での好奇心が、職人への第一歩。

ものづくりに興味を持ったのは、20代の頃にバックパッカーでスリランカを回っていた時。当時は、東南アジアや、西に向かってケニアやタンザニアなどのアフリカまで旅していました。旅先では、見たことのない建築物や聞いたことのない言葉を話す人々・・・自分の知らなかったものやことに出会えるのがうれしくて、いつもワクワクしていましたね。

その中の一つに、食料品や日用品を露天で販売している、ストリートマーケットのような場所がありました。覗いてみると、藁(わら)で編んだ籠のようなものを実演販売している現地の人がいて。その人の手によって、何の変哲もない藁がすいすいと編まれて一つの形になっていくのを見て、つい「編み方を教えて欲しい!」と話し掛けたんです。

実際に一緒につくらせてもらったら、意外と難しくて力加減がうまくいかずに形がゆがんじゃったりして。何回かやり直しながら、時間をかけてできあがったときの達成感は一番印象に残っていますね。今思うと、「面白そう」っていう好奇心が背中を押して、行動を起こすきっかけになったんだと思います。

日本に戻ってからは、結婚・出産を経て、子どもの成長と共に少しずつ自分の時間を持てるようになりました。そんな時に、旅先でものづくりに触れたことを思い出して。新しいことに挑戦してみようと、当時求人が出ていた土屋鞄に応募しました。実は、応募した後に工房に行ってみたんです。そうしたら、職人が実際につくっている姿が見られて。ものづくりに励んでいる背中が格好良くて、改めて、ここで働きたいという思いを強くして面接に挑みました。

入社した頃は、パートの女性が1人だけで、私が2人目でした。一緒に働いていた職人は全員で20名くらい。仕事やお昼の時も、いつも一緒でしたね。仕事では厳しい先輩方も、休憩の時には冗談を言ったり、和やかな雰囲気で過ごしました。そこには上下意識はなく、一緒に働く「仲間」のような一体感があって、それがとても心地良かったですね。

最初に教わったのは、ランドセルの「糊付け」作業。組み合わせていくパーツに糊を塗っていくのですが、単純に見えて、実は難しくて。指定された箇所からはみ出さず、厚さもばらつきがないように塗る正確さが必要です。また、糊付けするパーツは1日に何十個と行うので、早さも求められます。同じ作業を何時間と続けるので、緩慢にならないように集中力や根気も大事。

だから、職人として働く上での大事な要素が詰まっているんですよね。当時は覚えることに必死でしたが、今になってその大切さに気付きました。今でも、初心を忘れずにというのでしょうか。あの頃の思いを忘れないように、ときどき糊作業をしています。

糊付け作業をずっと担当して、ミシンを触らせてもらえるようになったのは入社してから3年ほどたった頃。始めはランドセルの製作に携わり、その後、大人向けの小物類を。そしてリーダーとなった今では、鞄の製作を担当しています。

リーダーとなった今では、製作の進行管理をしながら「まとめ」を任されるようになりました。パーツ同士を組み合わせてまとめる、最後のミシン掛けのことです。この作業では、例えば鞄の持ち加減を左右で変えただけでも、できあがりの形が変わってしまいます。ほんの少しの差が出やすく、後で直すことはできなくて。なのでミシンを使っている時は、話し掛けられても気付かないくらい集中しています。

だからこそ、まとめ作業が終わって一つの鞄ができあった時は、本当にうれしいですね。みんながつくったパーツが、一つの鞄として完成する。自分一人で何かをつくる達成感よりも、何倍も充実感がありますね。そういった思いでつくったからこそ、完成したものを棚に並べる時は、赤ちゃんに触れるように優しくそっと扱っています。そのくらい、思いの詰まったものをお客さまにお届けしています。

伝えること、伝わること。リーダーとして、次に繋げていく思い。


伝えること、伝わること。
リーダーとして、次に繋げていく思い。

誰かに教える時は、私が入社した頃にお世話になった、当時のリーダーのことを思い出しながら指導しています。細かい作業が苦手な人や、じっくりとマイペースに作業を進める人。そんな、一人ひとりの特徴を理解した上で指導する姿を見て育ったので、教わっていた私もすっと理解することができました。だから、私もあの頃のリーダーのように、技術を教わった当時のまま伝えるのではなく、相手に合わせた教え方ができるように心掛けています。

仕事中は、気軽に質問できる和やかな雰囲気づくりを大切にしています。重要なことはビシッと伝える一方で、楽しい話では一緒に盛り上がったり。教え方としては、少しくだけたタイプなのかな。今私が教えている若手職人たちは、一回り下の世代なので、もしかしたら、母親っぽさが出ているのかもしれませんね。

お客さまの笑顔を想像しながらつくれる楽しさ。


お客さまの笑顔を想像しながら
つくれる楽しさ。

職人であると同時に母親の立場であるからこそ、味わえた体験があって。息子と一緒に、「どれにしようかな」と相談しながらランドセルを選んだひと時や、荷物が家に届くと弾けるような笑顔で包みを開いて、「やったー!」と言いながら少し自慢げに背負った姿を見た時。そうした実体験が、技術とは違った面の職人としての糧になっていると感じます。「手に取った時、どんな顔をしてくれるかな」「このランドセルと一緒に、どんな時間を過ごすのかな」・・・そんなふうに母親目線でお客さまの顔を想えるのがとても楽しいですし、そういったものづくりができることに幸せも感じますね。

その思いは、ランドセルから大人向け鞄の担当に移った今もあります。現在は「フォーマルクラシックハンド」に携わっていますが、実は、息子の卒業式に自分でつくった「クラシックハンド」を持って行ったんです。改めて、「自分がつくった製品は、お客さまの特別な時間を共に過ごす存在なんだ」ってことを実感して。職人として、母親として。つくり手と使い手の両方の気持ちを味わったひと時でしたね。そのときの思いをこれからもずっと、大切に抱きながら・・・これからもたくさんの製品をお客さまに届けていきたいです。




STORIES OF CRAFTSPEOPLE


01
ISAO TAMAGAWA


02
YUKO SASAKI


03
KEIZO ABE


04
KOICHI HIRAISHI


05
YASUHIRO FUKUDA


06
RYOHEI FUJIMAKI


07
RUMIKO SASAKAWA

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