1. 眼差しの先にあるもの - 02.佐々木祐子-
STORIES
OF
CRAFTSPEOPLE

眼差しの先にあるもの

80代のベテランから20代の若手まで、個性豊かな土屋鞄の職人。
それぞれ、どんな想いで鞄と向き合っているのでしょう。

小学生の頃から、「手に職をつけたい」と考えていたという佐々木。ランドセル職人として工房に入り、2度の出産・産休を経て、サンプル職人へ。「OTONA RANDSEL」を始め、大人の方に向けた製品づくりに携わっています。コツコツ、という言葉がぴったりな彼女は、「腕が良い」とベテラン職人からも太鼓判。丁寧につくることがいちばん大切という、その仕事ぶりを覗きました。


職人とは“デザインする人と使う人の中間にいる存在”。


子どもの頃から、職人の仕事ぶりに憧れていました。きっかけは実家の玄関を改装したこと。大工さんや左官屋さんが、それぞれの持ち場でプロフェッショナルな仕事をしている姿が格好良くて。

その時はまだ、何の職人が良いかは具体的になかったけれど、“デザインする人と使う人の中間にいる存在”になりたいと考えるようになりました。

大学卒業が近づいて就職を考えた時も、鞄職人と決めていたわけじゃないんです。当時、自分の使う鞄をつくっていたんですけれど、布ならなんとなくつくり方がわかる。でも、革は扱い方からわからない。それなら、職人になったら学べるかなと思って。メルマガを購読していた土屋鞄製造所に、「職人は募集していませんか」って飛び込みで電話をしました。

最初、「今、女性の職人は募集していないんです」とお断りされてしまったんですよ。でも、事務所スタッフなら募集しているよと言われて、最初の3年間は販促を担当することに。その後、ランドセル職人として工房に入りました。

サンプル職人になったのは、産休から戻ってからです。ランドセルづくりが落ち着いた時期に、少しずつ大人の方に向けた鞄にも携わらせてもらうようになりました。

そもそも鞄は、製品にする前にサンプルをつくって、強度に問題ないか、スムーズに製造できるかなどを確認します。そういった仕事をする職人を「サンプル職人」というんですけれど、その仕事はまさに子どもの頃に思い描いた“デザインする人と使う人の中間にいる存在”。サンプルづくりをされていたベテラン職人にお願いして、少しずつ手伝わせてもらうようになりました。

そのベテラン職人は、当時すでに50年近く鞄職人をされている方。「デザイン画を見たら、なんとなくこんな型紙になるってわかる」とおっしゃっていて。「まず形にしてみなきゃ、全部わからない」というタイプだったので、細かく教えてもらうことはなく、仕事はすべて見よう見まねでした。

今も時々やるんですが、最初の頃は革に似た素材をクリップで挟んで、ああでもない、こうでもないって悩みながら形にしていました。微妙なカーブや縫った後の膨らみ方などを理解するのは、結構難しかったですね。


流れるようにつくれることは、より良いものづくりに繋がる。


“デザインする人と使う人の中間にいる存在”になりたいという気持ちは、鞄職人として7年目を迎える今も変わりません。デザイナーの「こんな鞄をつくりたい」という言葉に、「できますよ」って迷わず返答できるサンプル職人でありたいですね。

デザイナーとは言葉も交わしますが、デザイン画も細かく観察します。たとえば革の質感をフニャッ、ヨレッと描いてあったり、二重にシャシャッと線が描いてあったり。デザイナーがニュアンスで描いた部分にも、触り心地や鞄の表情に繋がるんです。同じ形でも硬くなったり柔らかくなったり、ちょっと添えられたスケッチが、サンプルのヒントになっています。

製品をつくる職人たちの、仕事のしやすさを考えることも私の仕事。いくら格好良い鞄でも、形にする職人たちが必要以上に苦労するものではだめ。そんなふうに考えられるようになったのは、「OTONA RANDSEL」を経験した、ここ2〜3年のことです。

最初の頃は、デザイナーのこだわりをそのまま形にしたい。そのためにはつくりが難しくても「なんとかお願いします!」「ここの角はミシンがけが難しいけれど、こんなふうに挑戦してみてください」というスタンスでした。

でも、製造で生まれる無理って、どれだけ小さくても積み重なると大きな負担になっていく。それはいつかどこかで、お客さまへご迷惑をかけることになってしまうかもしれません。先輩職人からも「サンプルの段階で考えなきゃだめだよ」とアドバイスをもらったこともあり、少しずつ意識が変わっていきました。

鞄って、ひとりで一本つくるんじゃないんです。パーツごとに担当がいて、流れるようにつくっていく。そうすることで細部までこだわったものづくりと、十分な製造数を両立することができるんですよね。

うちのランドセル工房に、『心一つに』という言葉が掲げられています。昔、ある先輩職人が書いたものなんですけれど、まさにそうだなと思います。年齢も個性もばらばらな職人が集まっているけれど、心一つに仕事をすれば良いものづくりはできるはず。

今の私は、子どもの頃に思い描いていた“デザインする人と使う人の中間にいる存在”というより、“デザインする人とつくる人の中間にいる存在”かもしれませんね。そして、その先に使ってくださるお客さまがいる。直接、お客さまと関わらないサンプル職人の仕事は独特ですが、やればやるほど奥が深くて面白いんです。

想いを込めたものづくりには、仕事のしやすさが不可欠。


私が一生のうちでつくることができる鞄はほんの少し。だからこそ、丁寧に心を込めてつくりたい。

もちろん、時間をかければかけるだけ良いものができるわけでもないと思うんですが・・・。ちょっと乱暴な例えですけれど、気持ちを込めてつくるのと、そうでないのとでは、鞄から漂う雰囲気が違うんじゃないかな。きっとものに込めた気持ちが伝わると思うんです。

土屋鞄には丁寧につくることが根付いています。それが製品から滲み出ていたらうれしいなと思っているんですが。そのためにも私にできることは、手を動かす職人たちが不安になるようなつくりの要素を、少しでも取り除いていくこと。

一度OKが出ても、改善点があればどんどん見直していきます。常に磨いていくことは、人でもものでも、より良くなるために欠かせないことだと思うんですよね。


佐々木が手がける、

「OTONA RANDSEL」についてはこちら。



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