1. 登山靴 ゴロー / ものづくりを訪ねる
登山靴工房ものづくり

登山には欠かせない、登山靴。いま、年齢を問わず登山を楽しむ方が増えているが、長年多くの登山家の足元を支えてきた靴がある。東京・巣鴨駅から少し歩いたところにある、1973年創業の老舗登山靴店「ゴロー」だ。ゴローの登山靴は、登山家の植村直己氏が使っていたことでも知られ、いまもたくさんの有名登山家が愛用する。週末になると全国からゴローの登山靴を求めて、山を愛する多くの方が訪れる店だ。はじめて店を訪れたとき、ドアを開けると店主であり職人の森本勇夫さんが、ちょうどお客様と話しながら登山靴のソールを修理しているところだった。

鞄と同じように「使うひととともに変化していく革の道具」として、何か土屋鞄とも共通する点があるのではないかと思い、森本さんに取材を申し込む。つくっている様子を見せていただきたい、というお願いにも快く応じてくださり、後日店舗から車で約20分のところにある工房へうかがった。

工房


登山靴
登山靴 工房

工房では森本さんを含め、現在7名の職人が登山靴をつくっている。登山靴づくりをひと通り覚えるまで、個人差はあるがここでは5〜6年はかかるという。森本さん自身は、若いころからここで、ずっと登山靴をつくり続けている。
「ときどき、井の中の蛙じゃねえかと思ってね。でも、別につくるのがめちゃくちゃ速いとも思わないし、ぐずだとも思わねえな。速かろう悪かろうじゃしょうがないからね」

いまの工房は、職人歴50年の大ベテランの方や2年ほどの若い方もいる環境。森本さんは若い方に技術を教える際に、自分で履く靴をつくると思ってつくれ、と伝えている。
「手間をかけないと。簡単にはできないんだよね。速いったって、いい仕事しなけりゃしょうがない。手は抜かせないからさ」
注文がたくさんあっても、つくる数を増やしたいがために手を抜くことはしない。いま靴を注文すると、手元に届くまでに約3ヶ月かかるという。登山ブームも手伝ってか、ここ数年は忙しい日々が続く。
「いまはちょっと異常だよね。必ず暇なときがくるから、そんなにひとは増やせないんだよ。うちは、アルバイトの職人はひとりもいないからね」

ものづくり


工房
登山靴 工房

工房を見学した際に、驚いたのは材料を保管する倉庫だ。あふれんばかりのたくさんの材料が、所狭しと「靴」になるのを待っている。ここだけでは収まりきらず、森本さんの自宅の一部も倉庫状態になっているという。耐久性が求められる登山靴は、材料選びがとても重要。山で靴がだめになると、命に関わってしまう。 「ここの材料は、何ひとつなくても靴はできない。これだけパーツがあると、材料集めは大変だよ。30年以上もかけてここまで集めたんだから。3年や5年そこらでなんとかしようったって、まず無理だよね」
靴の本体となる革は、以前はスイス製だったがいまはイタリアとドイツ製。靴ひもを引っ掛けるフックはオーストリア製といったように、登山靴に使う材料は、さまざまな国から仕入れている。最良の登山靴をつくるための材料を、今もなお探し続けているところに、森本さんの信念を感じた。

ものづくり


工房 登山靴

工房には、年季の入った靴がずらりと並んでいる。郵送や店舗に直接持ち込まれた修理依頼の靴だ。かなり履きこんでいる様子がわかる靴がいくつかあり、目に留まった。
「これは、1990年につくった靴。だからもう20年以上経ってる」 ここが前にソールを張り替えた跡だ、と教えてくれた。最近は接着剤の性能がよくなりすぎているため、ソールを何回も剥がすことが困難になり張り替えられなくなっているという。
「これは1984年製だよ、すごいよね。もう3回くらい張り替えてる。もういいんじゃないかな」と、靴を手に取りながらうれしそうに話す。同じ靴を30年にもわたって、履き続ける。持ち主はきっとほかの靴はもう履く気になれないほど、身体の一部になっているんだろうと、想像できた。

修理で工房に戻ってくる靴は、よく手入れがされているものが多いという。手入れは、愛着を持ってそのものに向き合い、大事にしている証。
「靴は手入れがいいとね、ちゃんと恩返ししてくれる。かわいがってあげなきゃ。人間だってかわいがってあげないと、逃げちゃうでしょ(笑)」

登山靴


工房 ものづくり

森本さんは、職人として靴をつくるだけでなく、店頭に立って直接お客様と接する。
「店で靴を売って、お客さんが喜んでくれることはうれしいよね。お客さんのなかには、こうやったほうがいいんじゃないかって、いい意見をくれるひともいるよ。もちろん、それだけじゃないけどね」
靴の形やパーツ、つくり方についてなど、店舗を訪れるお客様からさまざまな情報や意見を得る。なるほどと思うことについては、すぐに取り入れて試してみるという。つねに微調整を行い、柔軟に試行錯誤を繰り返す。そのため、革を効率よく裁断するために使う金型はつくらず、いまでもずっと職人が革包丁で革を1枚1枚裁つほど。店頭に立つことも、登山靴の製作に直結する大きな役割を果たしている。

工房


登山靴

取材を通して、森本さんのことばからは、靴を使うお客様や工房でともに技術を磨く職人への強い想いを感じた。職人ひとりひとりの技術をさらに高めて、いい登山靴をつくる。それを選んで使ってくださるお客様と接するなかで、さらに改良のヒントを見つけて取り入れていく。「いいものをつくる」ことは、森本さんにとっては言うまでもなく当然のこと。長年の技術やノウハウを大事にしながらも、現状維持ではない、さらに先を考えて靴をつくっている。

また、工房には年代物のミシンや、長年使い込まれた機械が並ぶ。どれもいまだ現役で使っていることに、手入れをしながら長く大事に使うという気持ちがここにも込められているように感じた。靴を使うお客様に長く使ってもらいたいという気持ちが、つくり手の現場にも表れている。



ゴロー
〒113-0021 東京都文京区本駒込6-4-2
TEL 03-3975-0855
url. http://www.goro.co.jp

2014年5月に取材

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