1. ベトナム紀行 フエ・ホイアン篇

旅

門をくぐるとそこは、駆けぬけた歴史が静かに眠り続ける古の都。

旅往く鞄 ベトナム紀行 フエ・ホイアン篇

鞄といえば旅、旅といえば鞄。
旅と鞄は切っても切れない存在です。旅好きの土屋鞄スタッフが歩んだ、忘れ得ぬ想いでの旅行記をどうぞ。

ひょろりと縦長に伸びるベトナムの、ちょうどヘソの辺り。かつての都が置かれたフエとホイアンの街には、猛スピードで変化し続けるベトナムの今の顔からは想像できない、古い歴史がそのまま残されている。被征服を繰り返しながら続いてきた、ベトナムの足跡を少しでも感じたい。緑深い自然に包まれ守られてきた2つの古都を、この目と肌で確かめてきた。

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ベトナム

異国の香りと、手仕事と。提灯で彩られる穏やかな港町。

突然のスコールに、ホイアンの街角の木の下で雨宿り。慌てて雨合羽を買った途端、空にからかわれたか、雨があがる。約200年前に貿易で栄えた風情あるホイアンの街並みがしっとりと濡れて、より一層ノスタルジックな空気に包まれた。
すげ傘をかぶり天秤棒を担いですれ違うおばさんの顔が日本人そっくりで、思わずふり返る。おもしろいことに、かつて日本をはじめ中国やヨーロッパの貿易商で賑わったホイアンには、京都の町屋のような古い木造家屋が立ち並び、日本人によって架けられたという「日本橋」まであるのだ。

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ベトナム

通りに軒を連ねるのは、黒髪の少女たちが手作業で針を進める刺繍の工房、色とりどりの提灯を仕立てる店、カンナの音が高らかに響く彫刻店。手先の器用なベトナム人ならではの文化が、異国の面影が息づく街に、不思議なほど心地よく溶け込んでいた。

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日もとっぷりと暮れる頃。街じゅうの軒先の提灯がともると、静かなホイアンの街が彩られ、幻想的に浮かび上がる。
川面に長く伸びてゆらゆらと輝く提灯の光と、提灯屋の店番の少女が影絵のように映る美しさと言ったら、夢か現か、幻か。ホイアンは、夜が待ち遠しくなる街だと、訪れた誰もが思うだろう。

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時が止まったままの、王朝時代に耳をすます。

翌朝。ベトナムの2段ベッド式バス初体験を楽しみつつ、山が海岸線まで迫る雄大な車窓の景色を横目にフエに向かう。フエは、日本で例えるなら京都のような街だ。
ベトナム最後の王朝の都であったこの街には、郊外一帯まで群をなして歴史的遺跡が眠っている。うっそうと草木で茂る奥地に突如現れる「ミンマン帝廟」では、風化して複雑な色の肌質になった門の奥の鮮やかな景色に息をのみ、フエの象徴「グエン朝王宮」では、あまりの広大さに相棒とはぐれ迷子になったほど。
フエの繁栄を物語るように、屋根や壁の華やかな装飾は、よく見ると砕いた器の破片を隙間なくタイルのように敷き詰めてある細やかさ。ここでも、ベトナム人の手仕事に出会った。

美しきは、はかなきものなのか。緑の中に眠る人々の歴史。

かつては皇帝しか通れなかったという、フエの象徴的な高い石造りの午門。その壁や路面には、ベトナム戦争の弾痕が痛々しく残っている。
これから刻まれる歴史が、どうか悲しいものではありませんようにと祈りながら門を出る。はためくフラッグタワーのベトナム国旗が、私たちを見送ってくれているようだった。

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