1. ネパール・チベット 紀行

旅

身近にいる大切な人の幸せを願う。
国や文化が違っても祈りの言葉に国境はない。

旅往く鞄 ネパール&チベット篇

鞄といえば旅、旅といえば鞄。
旅と鞄は切っても切れない存在です。旅好きの土屋鞄スタッフが歩んだ、忘れ得ぬ思い出の旅行記をお届けします。

ネパールとチベット。2つの国のチベット側に位置する小さな国境の町『ダム』。この町のはずれにひっそりと佇む小さなゴンパ(お寺)の扉を開けると、ヤク(家畜)の脂で作られたロウソクの重い匂いが体を包み込む。わずかな外光が射し込むだけの薄暗いゴンパの中では、大きなマニ車(※)をグルグルと回しながらひとりの女性が一心不乱に祈り続けていた。
「週に4〜5回はお寺に来るよ」と話す近くにいた街の青年に「何をそんなに祈るのか」と聞くと、彼はさらりと「身近な家族の幸せだよ」と笑顔で答えた。国や習慣が違えども、人の想いの根本に大きな違いはないのだと感じた一言だった。

※【マニ車】真鍮や木で作った筒の中に、巻物状の経を入れたもの。1回まわすと1回経文を読んだことに。

旅

たくさんの「はじめまして」と、心からの「また会いましょう」。

「旅」にも、いろいろな種類があるだろう。歴史のある街を楽しむのも旅。美術館や博物館を楽しむのもまた旅。人それぞれの目的や楽しみ方があるなか、私たちが選択した今回の旅の目的は「人」に出会うことだった。

ネパール


チベット

目的地は、日本と同じアジア圏のネパールとチベット。この2カ国を、わずか10日間で行ったり来たり。正確には「ネパールとほんの少しのチベット」という方がしっくりくる。ネパールを中心に陸路で国境を越えて、ほんの少しだけチベットへ入った。
特別な目的地を持たず、鞄ひとつで街中をひたすら歩く。歩けば歩くほど、いろいろな人に出会えるからおもしろい。日本人の顔に興味を持って走ってきた少女たち。陽気なアイスクリーム屋のお兄さん。優しく道を教えてくれた美しい女性。君の人生を占ってあげる、と突然手相を読みはじめた占い師のおじさんの言葉は何だか妙に印象深く、言われたように人生が進んで行くような気がして少々困った。

まだまだある。五体投地(※)をしながら寺院の回りで祈り続けるチベットの僧侶。ピンクのわた飴を売る少年。寡黙で心優しいチベット人のガイドの青年とドライバーのおじさん。
昨日まで想像すらできなかった人たちが身近な存在になっていく。旅をする意味を深く感じる瞬間がこの「はじめまして」なのだ。
そして同時に「また、必ず会いましょう」と、心から思えるそんな素敵な出会いが、このネパールとチベットの旅にはあふれていた。

※【五体投地】チベット式の礼拝方法。うつ伏せになる姿勢を繰り返しながら、前へ進む独特の礼拝方法。

ネパール

(左)チベットの女性。ヤク(家畜)の世話をしながら山を降りてきた。
トルコ石の大きな耳飾りを大切にしているようだった。

(右)ネパールの山岳の少女。おさげ姿ではにかみながらパチリ。
兄弟でおうちのお手伝いをしているおりこうさん。

旅

(左)チベットの少年とひつじ。
「僕は忙しいの!」とでも言いたげな表情で、友だち?のひつじを抱えて黙々と歩く。

(右)チベットを案内してくれたガイドの青年プーチュン。
誠実で優しい青年だ。チベットの未来を心配していた。

旅

(左)国境の町の少年。迷ってしまいそうな私たちの案内役をかって出てくれた。
もの静かで落ち着いた少年だった。

(右)五体投地をするチベットの僧侶。
厳しい体勢で祈り続けるため、僧侶とは思えぬ屈強な体に鍛え上げられている。

ネパール

帰国後、旅で出会った人の顔を想い出す。 「みんな、元気だろうか?」また会いたくて、思わず涙があふれてくる。

「ネパールはおもしろいでしょ?いろんな顔の人がいる。インド系の顔、チベットの顔、日本人みたいな顔だっている。でもみんなネパール人なんだよ。まだまだこの国はいろいろな顔を持っているからね。日本の若い人にもっと旅をしてほしい国です」と、ネパールでお世話になったホテルのご主人。この言葉が心の奥に今でも響いている。
緑あふれる山々に囲まれた自然の美しい国ネパールと、乾いた空気に澄みきった青空を持つチベット。どちらの国にも強い信仰の中に暮らす人々がいた。その姿を通して、もう一度自分の宗教観や日本の文化、様々な歴史を考える良い機会になったことは間違いない。
これからの人生で、どれだけの人と出会えるだろうか。
テレビやインターネットで世界中のニュースが流れていても、いまいち他人事のようで実感のなかった出来事が、旅の出会いを通して身近なものへと変わっていく。
旅を通じて出会った人々が、どうか元気でいてくれますようにと祈らずにはいられない。

チベット

(2008年4月)

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