1. 「輪島塗工房」 桐本木工所

職人

「いつもの漆器」を、創る。

土屋鞄のものづくりを支える、さまざまな日本の職人技をお伝えします。
【輪島塗】桐本木工所篇


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張り詰めた空気の中で、しかし淡々と。手のひらより少し大きい板の上で、ヘラの先からクリーム色のペーストが生き物のように伸びていきます。そこに存在するのは、職人仕事の実に心地良い緊張感。木と漆の匂いが混ざり合う中、時間がしなやかに流れていました。

桐本木工所は、江戸末期に源流を持ち、創業からは80年を数える輪島塗の工房。木から漆器の形を削り出す木地づくりから出発し、現在では企画・デザイン・漆塗り・加飾まで一貫して手がけています。
ご案内いただいた3代目当主の桐本泰一さんは、職人技術の継承に尽力しつつ、現代と未来における輪島塗の新しい可能性を追求。伝統の枠にとらわれず、さまざまなチャレンジを意欲的に続けています。

職人


工房

完璧な土台作りから、輪島塗の全てが始まる。

「輪島塗の工程は、細かくわけると124もあるんですよ」

まずは最初の工程「木地作り」。天日で3年乾燥させてから倉庫で15〜20年寝かせて狂いが出なくなった木材を、目指す形に削り出して整えていく工程です。作業場には消しゴムサイズの豆かんなや奇妙な形のノミなどの刃物が、無数にスタンバイ。それらを自在に操る木地職人たちの手は、まるで魔法の手です。豆かんなで木を削るときは、まるで指先から木屑が湧き出てくる感じで、眺めるだけでまったく飽きがきません。
しかし、木地作りで最も目を引く道具は「治具」という木製の補助具で、これは木を削るときに部品を固定して、作業しやすくするのが役目。同じ形のものを高い精度でいくつも作るための「型」なので、各製品の各工程ごとに違うものが必要です。そのため、それこそ無数にある治具ですが、これらはすべて木地職人たちの手づくり。つくるための道具まで自分たちでつくるとは、気が遠くなりそうな工程です。
でも、「道具を作るのも、仕事のうちですから」と、若手職人の谷さんは涼しい顔。「若手」とは言えど職歴20年を数える谷さんは、既に何百の治具を作ってこられたのだそうです。

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堅牢さの秘密は、下地づくり。漆は微かな空気の震えさえ嫌う。

続いて「下地づくり」。木地に生漆を塗って固めた後、様々な補強を施します。たとえば「布着せ」は、繊細な箇所に漆と米糊を混ぜた「のべ漆」を塗り、綿や麻の布を着せるという輪島塗独特の工程。これによって強度が格段に上がります。
さらに独特なのが、珪藻土の焼成粉末をのべ漆に混ぜて「地漆」をつくり、それを木地に塗っては研ぐことを繰り返す工程。硬く断熱性に優れた珪藻土を定着させることで輪島塗特有の「丈夫で剥げにくい」性質が生まれ、そこに研ぎを繰り返すことで滑らかな下地ができ上がるのです。

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こうした粘り強い下仕事の上に、漆の上塗りを何度も重ねてようやく完成するのが輪島塗。最終的に漆が8〜9層重なる丹念さが、輪島塗の深遠極まる美しさを生むのです。

職人

まるで宝石のような気品と奥行きを、「いつもの漆器」で日々、愉しむ。

桐本さんが目指すのは、決して余所行きのぜいたく品ではありません。桐本さんのテーマは、現代の生活に自然に溶け込み、長く愛用してもらえる「いつもの漆器」。そのため食器以外に、ステーショナリーなどの日用品にも挑戦してきました。
「輪島塗は革製品と同じで耐久性が高く、何回でも直せて、使うほど味わいと愛着が増す一生もの。日々の生活のなかで使ってこそ、輝くものなのです」

そんな桐本さんが自らの思いを語り、大きな期待を寄せるのが若手たち。常に新しい漆器の可能性を考えてきた桐本さんは、未来を託す若い力の育成にも非常に熱心です。
「技術の進歩に加えて、最近は新しい提案やアイデアを進んで出してくれるようになったんです。僕の思いが伝わっていると思うと嬉しくて」

そんな桐本木工所の姿勢は、職人技の継承・発展と、伝統の枠を超える挑戦につながっています。

工房

輪島キリモト・桐本木工所
石川県輪島市杉平町成坪32

企画・デザイン、木から漆器の形を削り出す木地作り、漆塗りまで一貫して行う創業80年の輪島塗工房。
数多くのコラボ作品を手掛け、様々なデザイン賞を獲得しています。

http://www.kirimoto.net/

※輪島キリモト×土屋鞄製造所コラボレーション商品「うるし塗りトレー革袱紗セット」は、製作・販売を終了いたしました。


(2011年3月)

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