1. 眼差しの先にあるもの - 06.藤巻涼平-
STORIES
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CRAFTSPEOPLE

眼差しの先にあるもの

80代のベテランから20代の若手まで、個性豊かな土屋鞄の職人。
それぞれ、どんな想いで鞄と向き合っているのでしょう。

工房でも指折りの革好きとして知られる、若手職人・藤巻。入社以来ずっと、革からパーツを抜き出す作業に携わっています。幼いころから、近所に住んでいた革製品の職人さんと家族ぐるみの付き合いがあって、革という素材になじみがあり、気がつけば革好きになっていたのだとか。そんな藤巻が、高校を卒業するときに革を扱う仕事に興味を持ったのは、自然なことだったようです。


とにかく、革を扱う仕事がしたかった。


小さい時から革がとにかく大好きで、高校を卒業したら、革を扱う仕事をしようと思っていました。業界のことを何も知らなかったので、まずは革のものづくりの勉強をしようと、1年間、靴の職業訓練校に行くことにしたんです。ここでは、革についての基礎知識や皮革産業の概要なども学べました。タンナー(革を鞣す工房)見学など、ワクワクしながら行きましたね。

卒業してしばらくは、革関係の商社でアルバイトをしていました。でも、ただ革に触れるだけでなく、やっぱりものづくりに関わりたいと思って・・・そんなとき、訓練校の同級生からすすめられたのがきっかけで土屋鞄に応募し、入社することになったんです。

入社して、しばらく研修をした後、裁断チームに行かないかと打診されました。裁断チームの仕事は大きく分けて、「裁断」と「型入れ」の2つがあります。「裁断」は、革に金型(刃の付いた金属製の型)を置いて機械でプレスし、パーツを型抜きする作業。その裁断の前に、あらかじめ金型の配置を決めて革に印を付けておくのが「型入れ」です。つまり革の品質を見極め、どう使うかを決める工程で、その後の作業のやりやすさから製品の出来栄えまでに影響する重要な役割です。

訓練校時代に研修があったので、裁断や型入れの重要性はある程度理解していましたが、正直なところ、鞄づくりはミシン!というイメージがあったので少し悩みました。でも、パーツになる前の大きな革にたくさん触れられるのが楽しみでしたし、何より、鞄づくりを土台から支える「縁の下の力持ち」的な仕事をマスターするのは、いい経験だと思いました。それで、チャレンジしてみることにしたんです。

言葉ではなく、「仕事」を見て学ぶ毎日。


裁断チームでは、この道40年以上のスペシャリストである後藤さんに教わることになりました。配属初日に行った作業は、ランドセルの革の裁断。後藤さんが型入れして革に付けた目印に合わせて金型を置き、裁断機に入れてプレスします。金型を正確に置くのは、初歩の初歩。それをいかに早く効率的に行えるかが、職人として大切なところです。

でもそれ以上に、この作業は安全第一。強力なプレス機を使うので、一歩間違えれば大けがをしたり、金型や革をだめにしてしまったりします。ですので後藤さんからは、機械のチェックと調整を念入りにし、集中力を切らさないように指導されました。ともすれば単調になりがちな作業なんですが、だからこそ、集中力を切らさないことが大切なんです。

そうして裁断を3ヶ月やって慣れたころに、型入れを教わりました。この作業が難しいのは、革の性質や特徴を熟知していないといけないところ。革は生地などと違って、深い傷痕などの使えない部分がランダムに散らばっているので、金型を置ける場所や面積が一枚一枚異なるんです。しかも革には線維の向きもあるので、それに合わせたパーツの採り方をしなければいけません。そうした革の特性に注意しながら、どれだけ多くのパーツを抜けるように、効率良く配置を決められるか。そんなパズルみたいな感覚の面白さが、型入れという仕事にはありますね。

型入れでは、ある面積の革からいくつのパーツを採るなどと、つくる製品ごとに基準があります。なので、革に傷が多いと型入れできる面積や向きが制限されて大変です。逆に、決められた分のパーツ数が効率良く採れると余り革が多く出るので、そこから小さなパーツを採ることができ、革を節約することができます。革が節約できればそれだけ多くの製品をつくることができて、お客さまにお届けできる数が増やせるわけなので、嬉しくなりますね。自分は裁断をするときに一枚一枚、後藤さんが記した型入れの配置を見て考えていました。「どうしてこう置くのかな」「なるほど、そう置くのか」・・・後藤さんは言葉で逐一教える方ではないので、仕事を見て学ばせていただきました。

少しでも、仲間の役に立てるように。


この仕事の面白さと言えば、革への理解が深まることで、ますます革が好きになることですかね。自分だけかもしれませんが(笑) これまではランドセルの革が中心だったのが、最近は大人鞄の革の裁断・型入れをやることも多くなってきたので、これまでより多くの種類の革に触れることができるようになりました。革という素材の個性の幅広さには、いつも驚かされます。

あと、裁断する前の大きな一枚革と多くのパーツの組み合わせである製品とでは、革が見せる「景色」が全然違いますね。肩部分のトラ(しま状のシワの痕)なんかは、迫力がすごいですよ。そういうのを見て、ああ、この革は生きていたんだな・・・そう思うと、できるだけ活かしてあげなくちゃと思います。型入れで、前胴(鞄の正面)みたいに製品の顔になる大きなパーツの採り位置を決めるときは、出来上がりを想像しながら、ここを使ってあげよう・・・なんて。

最近は裁断・型入れ以外に、糊付けや縫製などの作業も少しずつ手伝うようになってきました。それで、自分の仕事の出来が仲間の作業にどのように影響しているのか、リアルに感じられるようになりましたね。自分の仕事の位置付けや意義をより深く認識することで、以前よりも「ものづくり」への意識が高まった気がします。昔は目の前の仕事をこなすだけで精一杯でしたが、今は仲間が困らないように、仲間の役に立てるようにという思いで考えられるようになりました。この思いは、年々強くなっている気がしています。

そういえばこの前、試作品づくりに参加させていただいた時に、嬉しいことがありました。みんながハンドルの製作をしているときに、職業訓練校で使っていた靴づくりの道具でやることを提案したら、すごくはかどって喜んでもらえたんです。意見を聞いてもらえたこと以上に、みんなの役に立てたことがとても嬉しかったですね。

挑戦を続けながら、理想の職人像を模索したい。


▲ ベテラン職人の後藤さんと

将来どんな職人になりたいか、ですか? いやあ、まだまだ知りたいこと、学ぶべきことが多くて、正直分かりません。裁断チームの仕事を極めて後藤さんの後継者になるのか、他の作業もマスターして職人としての幅を広げるのか・・・。ただ、とにかく革が好きなので、革を使ったものづくりにはずっと携わっていきたいですね。自分の理想の職人像を模索しながら、尊敬するベテランや先輩の皆さんから技術だけでなく、心構えなどいろいろなものを貪欲に吸収していけたらと思っています。

逆に、後輩に裁断や型入れを教えることも最近は出てきましたが、感覚的に身に着けていることを言葉で伝える難しさを痛感しているところです。それは、自分がまだこの仕事のことを100%は理解できていないからですかね。だとしたら、やはりまずは裁断・型入れの仕事を極めた方が良いのかもしれません。

自分も時々やっているんですが、就業時間後や休みの日に工房に来て、物づくりをしている仲間がたくさんいるんですよ。そういう姿を見ていると、やっぱりとても刺激を受けますね。あと、尊敬する先輩職人の方が、デザイナーの方と新しい製品づくりのことを話しているところに立ち会う機会があったんですけど、自分の知らない仕事の話を聞くのがとても面白くて。これからはもっと幅広く関心を持って、自分の引き出しをどんどん増やしていきたいと思っています。


藤巻が携わる製品についてはこちら。



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