1. ストーリー・土屋鞄 第3話
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第3話

コツコツと技と想いを込めて

8⽉初旬から、⼟屋鞄の⼯房では、いよいよ「贈り物」の試作品づくりが始まりました。
実際に「オイルヌメ⾰」を使って、
「箱型」「⼱着型」「ロール型」の3種類の道具⼊れをつくっていきます。

⼟屋鞄では、新しい製品を考えるとき、まず試作品づくりからスタートします。
その試作品を実際に社内のスタッフが使ってみて、機能や使い⼼地を確認。
使い⼿⽬線に⽴った声を反映させながら、納得がいくまで試作品をブラッシュアップしていきます。

今回の企画で、この⼯程を担当するのが、職⼈の阿部です。
17 歳のときから鞄づくり⼀筋で歩んできた阿部は、今年80 歳。職⼈歴で⾔うと、63 年⽬になりました。

「幼い頃は持病の喘息があったから、⾃分の思うように何かに挑戦してみるのが難しくってね。
そのせいか、そのときの⾃分にできることを、ただただ⼀⽣懸命やるというのが僕のスタイルになった。
それで鞄職⼈も続けてきて、気が付いたら、この歳になっていたよね」と朗らかに笑う阿部。

鞄づくりの経験はもちろん、⼈⽣の先輩としての経験も豊かな阿部は、
⼟屋鞄の中でもみんなから頼りにされる、⼤きな存在です。

今回の試作品づくりの中で、阿部が最初につくり始めたのは、「箱型」の道具⼊れ。
⼿仕事と共に⽣きてきた⼈⽣がにじみ出る、⼤きくてがっしりとした⼿と相棒の道具で⾰を裁断し、
⼀つひとつ、パーツをつくっていきます。

この道具⼊れは、箱型のシルエットをきれいに仕上げるため、⾓になる部分に⼿でクセをつけたり、革の幅を均一にそろえたりと、下準備にも時間をかけるんだそう。

各パーツを組み合わせ、縁を縫っていくときにはミシンを使い、さらにつくりの細かな部分は、全て⼿作業で仕上げていきます。

今回の「贈り物」のデザインを担当し、⽇頃から阿部と⼀緒に仕事をすることの多いデザイナー・丸⼭は、
阿部に対して、⼤きな信頼を寄せています。

「阿部さんはいつも、どうして僕がこの鞄をつくりたいのか。そんな図⾯に書いてないことまで感じ取ろうとしてくれるんです。今回もどういうつくりにしたら、編み⼿さんが使いやすくなるのかと、⼀緒に考えてくれました。経験が豊富だから、『こうしたらもっと良くなるんじゃないか』という具体的な提案もたくさんくれるんですよ」と丸⼭。

例えば、「箱型」の道具⼊れで⾔えば、シルエットをきりっとかっこよく仕上げるのが大事なポイントの1つ。そのため、革の質感を損なわないよう配慮しながら全体的に⾰を漉いて厚みを減らしましたが、そのアイデアは阿部からの提案だったそう。

「丸⼭くんが描いてくれた図⾯に対して、どうしたらもっと⾒栄えが良くなるのか。どうしたらもっと使い⼼地が良くなるのか。それを考えながら、技術の⾯で⽀えていくのが僕の役⽬だからね」と阿部は⾔います。

⼀⽅で、「⼱着型」と「ロール型」の道具⼊れは、
ふっくらと丸みのある形に仕上げていくために、⾰の厚みが必要でした。

特に、完成までに時間がかかってしまったのは「⼱着型」の⽅で、最初は⾰の厚みがネックとなり、⼝がしっかりと閉まりませんでした。
そこで、⼝周りの⾰を少しだけ薄くしたり、上部に襞を付けたり。⼝が閉まるようにいろいろと試⾏錯誤を重ねましたが、こうした⼯夫も阿部からの提案でした。

そして、つくり始めからおよそ2週間後。3種類の試作品が無事に完成 !

「編み⼿さんたちがどんな反応をしてくれるか、ドキドキしますね」
「気に⼊ってもらえるといいなあ」と⾔葉を交わし合う丸⼭と阿部。

その後、8⽉の末に、丸⼭はその出来⽴てほやほやの試作品を持って、再び気仙沼の編み手さんたちの元を訪ねました。

まずは、編み⼿のリーダー・じゅんこさんと社⻑の御⼿洗さんに⾒てもらいます。

「わあ ! かっこいい ! 」「どの形もつくりが細かいですね ! 」と初めて⾒る「贈り物」の試作品を前に、声を上げながら喜んでくれるお⼆⼈。

じゅんこさんは「こんな素敵な道具⼊れに編み物道具を⼊れるなんて、すごく贅沢よね」と、
嬉しそうにほほ笑みます。

「箱型と⼱着型はハンドルや紐が付いているから、そのまま持ち運べるのも良いですね」と、
機能⾯にも注⽬してくれた御⼿洗さん。

編み⼿さんたちは、編み会が開かれる事務所と⾃宅を⾞で往復するため、座席にさっと置けて、そのまま持ち運べる形だと、とても使いやすいのだそう。

丸⼭は、他の編み⼿さんたちにも意⾒を聞いてまわります。

「⼝が広いから、⼤ざっぱな私でもザクザクと道具が⼊れられて、使いやすそう」
「安定感があるし、机の上に置いたら、すぐに使い始められる形も嬉しいなあ」と
編み⼿さんたちの反応は良い感じ。
特に多くの⽅が気に⼊ってくれたのは、「箱型」と「⼱着型」の道具⼊れでした。

「ただ、もっとポケットが付いていたら、道具を細かく整理できて使いやすいかな」
「⼱着はもう⼀回り⼤きかったら、かぎ針とか定規とか、⻑さのある道具も⼊れられるよね」
そんなふうに、改良のための貴重な意⾒もいただけました。

⼀⽅で、今回の贈り物の候補にならないと感じたのは、紐をくるくると巻いて開け閉めする「ロール型」の道具⼊れです。
ころんと丸い形は「かわいい ! 」と好評でしたが、1回1回、紐を巻く動作だったり、丸いために他の型よりも安定感に⽋ける形が、道具⼊れとしては使いづらいとのことでした。

編み⼿さんたちからいただいた意⾒を、⾃分のノートに一つひとつ書き込んでいく丸⼭。
東京に戻ったら、阿部にもしっかりと伝えます。

「この⾰は、ふんわりと柔らかで、⼿になじむ感じが良いわね」
「こんな素敵な道具入れをもらえたら、いろんな使い方をしたくて迷っちゃうわよね」と、
丸⼭が想像していた以上に、編み⼿さんたちは試作品を気に⼊ってくれた様⼦。

そんな編み⼿さんたちとのやりとりから、嬉しい気持ちまで受け取った丸⼭は、
「もっと喜んでもらえる『贈り物』に仕上げていきますよ」と声に⼒が⼊ります。

この後は、再び阿部と相談しながら、試作品をさらにブラッシュアップしていきます。

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