1. 明日のつくり方 ユーザーインタビュー佐々木俊尚さん

頭の“空白”と考えの“幅”が、明日を豊かに創造する

佐々木俊尚さん/作家・ジャーナリスト



木々の息遣いが聞こえてきそうな、軽井沢の深閑とした別荘地。その一角を訪れると、佐々木俊尚さんが笑顔で迎えてくださいました。IT・メディア分野を中心に、経済・社会問題から食文化まで幅広い執筆活動を行われている佐々木さんは、ここ軽井沢と東京・福井の三拠点を回るご生活を送られています。どうして、三つの拠点を持とうと思われたのでしょうか。

「東京のマンション以外にもう一つ拠点を持とうと思ったのは、3.11の震災がきっかけでした。妻と相談し、東京から近いところでもう1ヶ所家を借りようという話になって。結果、軽井沢に落ち着きました。ここに来ると集中できるので、机に向かって黙々と仕事していますね。もう4年目くらいかな。長く住んで、けっこう気に入っています。

福井の拠点は、若狭湾のほとりにある美浜町です。そこでNPOを運営している友人が、いろいろなクリエーターに長く住んでもらって制作活動と町のPRをやってもらうプログラムを始めるというので、その流れで去年11月に築百年の古民家を貸してもらいました。

そんな感じで、今はこの三拠点を移動しながら生活しています。だいたい東京に2週間、軽井沢と福井にそれぞれ1週間ぐらいのペースですね。なるべく事前にスケジュールを組んで、それを動かさないようにやっています」

たまたま試みとして始めた三拠点での生活で、いろいろなことが変わり始めたという佐々木さん。それは生活の仕方だけではなく、考え方にまで及んだそうです。

「三つの拠点を行き来するという大きなローテーションがあると、生活のリズムみたいなのが出てきますよ、すごく。1、2週間おきに締切が来るような感じです。例えば、軽井沢へ行く前に仕事は全部片付けようとか、冷蔵庫の中身も食べきるとか。そうすると、次の拠点には心身ともにクリアな状態で行けるんです。

それから、ものが減ります。各拠点に着替えや生活必需品などを置いておけば、持ち歩くのは移動中も必要なものとノートPCくらい。各拠点に置くものも『これって、全部の拠点に必要かな?』と考えるようになったので、無駄なものは買わなくなりました。あと、それぞれに環境や人、文化の個性があるから、移動する度に良い気分転換になります。

無駄がなくなり、余計なことや気が散ることから解き放たれると、頭の中に“空白”ができます。これが、とても大事なんです。そうした余白とか空き容量のようなものを頭の中に確保すると余裕ができて、良い考えが浮かぶんですよ。それが、より良い『明日』をつくるのにも役立つような気がします。頭の中の“空白”って決して無駄とかではなく、むしろもっと大事な時間で、積極的に使う方が良いと思うんです。

そういう“空白”をつくるために三つの拠点を設けようと思いついたわけではないですが、結果的にそうなっていますね。自分自身の実験として、やってみたらどう変わるかなっていうのを試してみたいというのがありました。三拠点にしてからはまだ2年半ぐらいですけど、いろいろなことがだんだん見えてきたところです」

「週末や余暇に、いかに交流が広がる活動をするかっていうのも結構大事だと思っています。特に、自分の業界じゃない人と付き合うことですね。例えば、僕は今年の1月から『SUSONO(すその)』というコミュニティをやっているんですけど、そうしたところで、利害関係なく自由に付き合えることが大切だと思っています。知らない人たちとの交流が広がると、考え方の“幅”が自然に広がってくると思うんですよ。

ただ、いくつか大事にしているポイントがあります。一つはなるべくヒエラルキーとか、固定的な関係をつくったりしないこと。そうすることで利害関係にとらわれない付き合い方ができるようになります。もう一つは、金額とかでなく、その人が良い人かどうかで仕事を決めるということ。金額はどうでも良いです、あなたが好きだから仕事するよっていうスタンスでやっていると、回り回って何年か後に大きな仕事につながったりとかするので、それで良いかな、と思っています。

あと、今の時代は、トライ&エラーやヒット&アウェイの繰り返しが大事です。先が見え辛くて計画が建てにくい現代では『ちょっとやって、うまくいったら伸ばす。うまくいかなかったら撤退する』の繰り返しが大事なんです。『明日』というものは見えないし、どうなるか分からないものだから、より良い『明日』をつくるには柔軟な姿勢で臨むのが良いと思います。

ただし、それとは別に、やるべき軸を自分の中に持つことも大事です。僕個人でいうと、本を書くっていう仕事。そこでは、儲けとかコストとかいうのは一切考えません。自分の生きることそのものであるものは『軸』としてしっかりと持ち、生活のための糧みたいなものは、トライ&エラーやヒット&アウェイの繰り返しで試していく。そういう風な両輪で、柔軟にやっていくのが良いかなと思っています」

ミニマルな生き方にフィットしてくれる鞄


佐々木さんには、土屋鞄の 「OTONA RANDSEL」 をご使用いただいています。そのきっかけは、偶然の出会いだったそうですが・・・。

「とあるパーティで会った人が持っていて、良いなと思ったんです。いわゆるミニマリズムの極致みたいなシンプルなザックだなと、ちょっと感動しました。

僕は基本的に荷物が少なくて、ガジェット類に名刺やボールペン、常備薬と防災道具などを入れてモジュール化したこのポーチに、MacBookと傘が加わるくらい。なので、電車の中でも邪魔にならない幅で、シンプルなこの鞄がしっくりくるんです。

ものをどんどん減らして、なるべくシンプルでミニマルに生きるっていうのが、ここ何年かの大きなテーマになっているんですけど、その流れにすごく合う鞄かなって思います」

もう一つ、スタイル的な部分とはまた別に、『心のこもったもの』であるのが好きです。実は、土屋鞄は軽井澤のお店ができたときにすぐ見に行ったんですけど、店内から工房が見えるのが好きで。職人の皆さんが一所懸命やってる姿が、すごく美しいと思ったんですよ。自分の好きなペットを愛でるように、ランドセルを撫でたりとかしているあの感じがすごく良いなって。あんなに愛情持ってランドセルをつくっている人がいるんだから、きっと良い鞄なのだろうと思いました。

最近、AIなどのテクノロジーが究極に進化した時に人間に残るものは何かって、すごく考えるのですが、僕は、人と人の“コミュニケーション”と、人が実際に感じる“質感”だと思っています。つくっている人の雰囲気とか、ものの質感とかも含めた、インターネットでは伝えられないもの。それが、とても大事なものになると思うんですよ。先ほど『良い人と仕事をしたい』って話をさせていただきましたが、そこに通じる感じがします。愛情を込めてつくられた鞄を通じて、職人の皆さんとつながることができる喜び。そういうところに、ものづくりの『明日』があるような気がします」

佐々木俊尚さん
作家・ジャーナリスト。毎日新聞・社会部記者、『月刊アスキー』編集部を経て、2003年よりフリージャーナリスト・作家としてご活躍中。インターネットやコンピューターといったテクノロジーによる社会変容についての鋭い考察・提言をはじめ、IT・メディア分野、政治・経済・社会・文化・料理にいたるまで、幅広いジャンルを精力的に取り上げていらっしゃいます。新著『広く弱くつながって生きる』(幻冬舎新書)ほか、著書多数。



ランドセルの機能美を纏った、
背負う仕事鞄の「理想形」。


OTONA RANDSELについて
お話を伺わせていただきました。
OTONA RANDSEL製造リーダーを務める職人の玉川。
彼の仕事との向き合い方について聞きました。
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