1. 眼差しの先にあるもの - 03.阿部啓三-
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CRAFTSPEOPLE

眼差しの先にあるもの

80代のベテランから20代の若手まで、個性豊かな土屋鞄の職人。
それぞれ、どんな想いで鞄と向き合っているのでしょう。

母親のすすめにより17歳で鞄職人のもとへ上京し、62年。ずっと鞄づくりに携わってきた阿部は「生きるために仕事をしてきた」と言います。時代もあり、手に職をつけることは、多くの人にとって重要なことでした。しかし68歳から土屋鞄で働き始め、若手職人たちと向き合ううち、気持ちに変化が・・・。ベテラン職人の心の内を聞きました。


学びたければ、自分を修正することは怖くない。


革職人

私は秋田の生まれなんですが、当時は中学校を卒業して就職する人たちと進学する人たちに分かれて教育を受けたものです。僕は5人兄妹の3番目だったこともあって、就職組。当時の僕は、自分が何をやりたいかより、食べていけるかどうかが職業を選ぶ基準でしたね。

鞄職人になったのは、お袋が人づてに見つけてきてくれたからです。ハンドバッグ職人の家に住み込みで働き始めました。

革職人

自慢できる話じゃないけれど、私は「こういうふうにやっていこう」と計画を立てるよりも、人にすすめられたら「まずやってみよう」という性格でね。計画を立てるとゴール目指して進むものだけど、僕の場合はそもそも計画を立てないんです。

こんなふうになったのは、持病の喘息が影響しているかもしれない。今じゃ若手職人とアウトドアを楽しんだり、仕事も元気にやったりしてるけど、子どもの頃は発作が出ちゃうから、長い目で見て何かに挑戦することが難しくって。その時の自分にできることを一所懸命やるっていうのが、私の基本になったんです。

インタビュー
革職人

でも土屋鞄に68歳で入って、80歳を迎える今まで働いてきて、土屋鞄で職人人生を終えることが僕のゴールになるのかも・・・とも感じています。だとしたら、職人としてとても良いところに行き着かせてもらった。こんなふうに思えるのは、若手職人と日々触れ合えることが大きいですね。

若い人はすごいですよ! 僕は今、鞄のサンプル職人をしていますけど、彼ら彼女らの仕事を見ていると感心するんです。どんなに細かい仕事でも、根気や集中力がすごい。ささいな物事にも何かを見出して、探求しているんですよ。

だからむしろ、私が学ぶことの方が多いぐらい。“技を盗む”っていう言葉がありますけど、若手職人の仕事を見て「その手があったか!」と試して、取り入れることもあります。人間誰しも、年齢を重ねると自分の型みたいなものができて、考えも動きも一つの塊になってしまうでしょう。でも私の場合は、若手職人たちが触発してくれるから、自分を修正し続けられるんだと思うな。

ものづくり

何も特別なことをしているわけじゃないんですけどね。朝「おはよう」って言って、夕方「じゃあな」って帰る。その一日の中で、若手職人と話したり、若い人同士で話しているのを横で聞いて「ああ、そうなのね」とか「いやいや、それ違うんじゃないの」とか、心の中で思う。それだけで十分、刺激されるんです。

“我以外皆我師也”っていう言葉があって、“自分以外の人、自然、全てから学ぶ”という意味なんです。学びたい気持ちさえあれば学び続けられるし、自分を修正することも怖くない。今、この言葉を実感しているし、鞄職人としてうれしい人生が送れていると思いますよ。

“振り返ったらいつの間にか”経験を積み、上達している。


革職人

鞄のサンプルをつくることは、何年やっても何本つくっても、やっぱり大変ですね。デザイナーが思い描く姿にしなければならないから。サンプルを確認したデザイナーに「こういうイメージでした」って言ってもらうと「良かったな」って、毎回ホッとします。

大事なことは、デザイナーの気持ちまで理解してサンプルをつくることでしょうか。斜め横あたりから見た感じの、できあがった形が立体的にわかるものを描いてもらえれば、随分と理解が違います。線の描き方で固いかやわらかいかがわかるし、どんな鞄にしたいかも伝わるんです。

そもそも私がサンプル職人になりたての頃、40代後半だったかな。デザイナーはいませんでした。自分でこんな鞄はどうだろう? と考えて、サンプルをつくっていたんです。誰かから教えてもらったこともありませんね。自分で考えるしかない。手探りで始めたもんだから、今でも形にしてみないと、実際はわからない部分もあります。

革職人

最初にも話しましたけど、私は持病があるから、ゴールを決めずに走りながら考えて行動する癖があるんです。つまずいたり、ひっくり返ったり、人一倍の失敗をしながらやってきました。鞄のサンプル製作もそう。特に最初のうちは、ウンウン考えるより、つくりたい鞄と似たものを買ってきて研究しましたね。こうなっていたんだ、なるほどな、こうすればいいのかーって。品物をバラして知識をつけながらやってきた部分もたくさんあります。

結婚も早かったし、すぐに子どもも2人生まれたから、生きるために走ってきたとも言えますね。しんどいとか大変だからって、鞄職人を辞めようとか仕事を替えようとかも、思ったことがない。ただただ目の前の物事に向き合って、気がついたら今ここにいる。どんなことでも、経験を積むとか上達するとかって、振り返ったらいつの間にか・・・じゃないでしょうか。


頑固だけじゃ、良いものづくりは難しい。


革職人

ものづくりに関わるうえで譲れないことは、ないですね。土屋鞄の鞄づくりは、共同作業なんです。たくさんの職人が知恵を出し合って、一緒に1本1本つくっていますよ。

もちろん私にも自分の意思はありますよ。でも、職人みんなで同じ方向を向いてやっていくなら、譲らなきゃいけないものは、その時々でいくらでも出てくるでしょう。自分を通してばかりの頑固じゃ、より良いものづくりは難しい。これって遊びでもなんでも、全てがそうだと思うな。協力し合わなくてすむのは、夫婦ぐらいなもんで(笑)。

ものづくりが好きな職人たちが集まって、粛々と鞄をつくっている。80歳を迎える今、この輪っかの中にいられて、本当に楽しいんですよ。仲間たちと良い製品をつくり続けられるように、これからも頑張ります。


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