1. YOUR PORTRAIT / GIFT EPISODE 02

それぞれの心の中にいる、大切な「あの人」。
贈り物にまつわるエピソードを通じて、その人の姿が見えてきます。

02.想いを届ける鞄

鈴木健太 / 土屋鞄製造所 職人

好きな人に、好きなことをして輝いてもらいたい――
そんな気持ちを抱いたことはないだろうか。
土屋鞄製造所の職人・鈴木健太は、まさにそうしたエピソードの持ち主。
大切な人とのことについて話を聞いた。


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「純粋にものと向き合うことが、自分の性に合っている」と語る鈴木は、職人になって6年目。以前は別の会社で企画営業の仕事をしていたが、自分の手を動かしてものづくりをしたいという思いから、鞄職人の道へと進んだ。入社して配属されたのはランドセル製造部門。ランドセルづくりには膨大な工程があり、その複雑な過程を、職人が一つひとつ手をかけ、形にしていく。どの工程にも丁寧さ、正確さが求められるなか、鈴木はどんなときも緊張感と目的意識をもって仕事に取り組むことを忘れない。「常にどれくらいの時間をかけているのかを意識するようにしています。職人として、どんなところでも通用する人間になりたいですから」。

……と、こう書くと、ストイックな側面が強調され過ぎてしまうかもしれない。でもじつは、とても柔らかな空気を纏った人物なのだ。そのことを感じさせてくれるのが、昨年10月に結婚した奥さま・あゆみさんとのエピソードである。あゆみさんはグラフィックデザイナー。彼女が絵を描く姿に惹かれて交際がスタートした。「自分は絵を描くことがあまり得意ではなくて。だから余計に、絵を描く彼女が素敵に、かっこよく映ったのかもしれないですね」。

あるとき、鈴木はあゆみさんの描いた一枚の絵に目をとめる。美しいレンガ造りのレストランの絵で、尋ねると、昔から通っている特別なお店なのだという。そのとき、鈴木はあることを心に決めた。「プロポーズはこのお店でしよう」。結婚してからも、とにかくふたりはテンポが合うらしい。たとえば休日の過ごし方。お互いに予定を細かく立てて行動するタイプではなく、近所を流れる隅田川沿いを、ゆっくりと散歩するのが定番だ。心地良いと感じる時間の過ごし方が同じなのだという。

鈴木はこれまでに数回、あゆみさんに自作の鞄をプレゼントしたことがある。少し照れくさそうに見せてくれたのは、ハンドバッグとトートバッグ。ハンドバッグは小ぶりで、ちょっとした外出に使い勝手がよさそう。聞くと、サプライズでつくったものなのだとか。型をつくるところから、裁断、ミシン掛けまで、全部をひとりで行った。終業後に工房で作業をしていると、先輩の職人たちが立ち寄り、ひやかしつつも助言をくれた思い出も詰まっている。大判のスケッチブックが収まるトートバッグはあゆみさんのリクエストで、誕生日に贈ったもの。使い込まれているけれど、持ち主が大切にしていることがわかる。「いま見ると粗さばかりが目立つんですけどね」と言うが、その表情は溢れんばかりの笑顔だ。手づくりの鞄を贈られたあゆみさんも、きっと同じような笑顔だったに違いない。

「これからも、一年に一度は、手づくりのプレゼントを贈り続けていきたい」と、屈託のない表情で話す鈴木の様子を見て、ふと、彼が贈ったものは、手づくりの鞄だけではなかったのかもしれないと思った。あゆみさんが大切にしている散歩や絵を描く時間を、よりよいものにするプレゼント。それらを贈ることができたのは、なにより鈴木が、あゆみさんにとって大切なことをしっかりと想像できたからだ。相手が大事にしていることをイメージできるその心こそ、一番の贈り物なのかもしれない。

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鈴木健太 Suzuki Kenta
土屋鞄製造所 ランドセル職人。2011年に入社。職人としてランドセルづくりを学び、さまざまな工程に携わる。現在は技術主任として、工房の職人たちの育成・技術指導にあたっている。いつも朗らかで、工房のムードメーカー的存在。

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