1. SWITCH INTERVIEW 職人同士
職人同士

SWITCH INTERVIEW

職人同士

貞清智宏(hum)× 野村亮太(土屋鞄製造所)

「記憶に残るジュエリー」をテーマに、ひとつひとつ手作業にこだわった丁寧なものづくりを続けている「hum」。その仕事に興味を抱いた土屋鞄製造所の職人が、千駄ヶ谷にある「hum」のアトリエに伺った。いま、ものをつくることについての対話。

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貞清智宏 SADAKIYO TOMOHIRO(左)
ヒコ・みづのジュエリーカレッジ卒。
第39回技能五輪全国大会、銀賞受賞。
堀製作所、彫金部を経て2004年デザイナー稲沼由香と共にhum設立。2009年法人化、代表に就任。

野村亮太 NOMURA RYOTA(右)
土屋鞄製造所 技術開発部所属。ランドセルの職人として活躍した後、現在は鞄や大人ランドセルのサンプル製作を担当。最近職場の同僚とサーフィンを始めた三児の父。

革職人

東京・千駄ヶ谷にあるhumのアトリエにて

たまたま飛び込んだ道


野村
ぼくは裁縫関係の学校に通っていたのですが、最初から職人を志したわけではありません。企画・営業の仕事に就いたあと、「つくる」ことを仕事にしたいという視点で転職先を探していたら、たまたま土屋鞄が職人を募集していて、飛び込んでみたんです。それで実際にやってみたらこれは一生の仕事にできる、続けていきたい、と思うようになりました。貞清さんは最初からジュエリー職人を志していたのですか。

貞清
ぼくも野村さんと同じです。たまたまアルバイトに行ったところがジュエリーメーカーで、ものをつくることで生活している人がいることに驚いたし、そこがまたちょっとお洒落だったんですよ。これが仕事になるのはいいなと思って(笑)、就職したいと申し出たのがはじまりでした。だからジュエリーが好きではじめたわけではなくて、興味を持って踏みだした先がたまたまジュエリーの世界だったんです。

 結局その会社には就職はせず、彫金や石留めの専門的な部署のある会社に入って、4年間勤めました。それで転職を考えてたのですが、いま一緒にhumをやっているデザイナーの稲沼由香が「ブランドをはじめることにした」というので、3ヶ月間限定で手伝うことにしてみたんです。その3ヶ月で取引先が決まったらブランドとして継続、だめなら再就職、そう決めた。そうしたところ幸運にも取引先が決まり、humを本格的にスタートすることになりました。



仕事着に込めた思い


野村
貞清さんにお会いして、すごくカチッとしたフォーマルな服装をされているのに驚きました。新鮮というか、いい意味で「職人」のイメージを裏切られたというか。土屋鞄では職人はデニムのエプロンをつけて作業をします。よく「革のエプロンじゃないの?」と言われるんですけど、作業のなかで床に座ることも多いので、ごわつかなくて丈夫な素材じゃないといけない。それでデニム生地のエプロンを作業着としています。

貞清
デニムのエプロン、カッコいいですね。僕は会社勤めの時はネクタイこそ締めていないけれど、いわゆるブルーワーカーの作業着のような制服を着ていました。それはそれでよかったのですが、自分たちでブランドをスタートするとなった時にいろいろと考えて、そのなかのひとつに、職人の社会的ステータスの向上に貢献したいという思いがあったんです。

 昔に比べたらずいぶんよくなっているのかもしれませんが、やっぱり工場で働く職人さんの社会的地位はまだまだ高くないと思います。実際、ぼくも会社員時代はすごく給料が安かった。当時の自分は未熟でしたから給金が安いのは当たり前なんですけど、それを差し引いても、労働時間・内容と給金のバランスが適正とは思えませんでした。この状況を変えるにはどうしたらいいのか。それには、単純に売り上げをあげるだけでは足りなくて、職人の社会的なステータスを高めていかないといけないんじゃないか……そこで、まずはお客様に対して失礼のない服装で仕事をしようと思ったんです。

 ヨーロッパへ行くと、たとえばジュエリー職人は白衣を着て仕事をしていたり、靴屋や洋服屋でも、職人がお客様と同じような服で仕事をしている姿が見られます。それが単純にカッコいいなと思ったことも影響していますね。あんなふうになりたい、そういう職人でいたい、そう思って。

 ひとつこだわりがあるとすれば、ぼくらは職人なので、ワイシャツは白ではなく青、ネクタイもブルーにすること。それはブルーカラーであることの誇りです。じつはブランドのショッピングバッグも青を基調にしています。

インタビュー

土屋鞄製造所からリリースしたビジネスバッグ「大人ランドセル」

日本独自のものづくり


貞清
野村さんのお仕事として大人ランドセルをお持ちいただきました。これ、すごくいいですよね。ランドセルというと子ども用というイメージですが、大人が背負ってもばっちりハマる。革製品なので当然重さはあるけれど、実際に背負ってみると背中にフィットして重さをほとんど感じないですし。ランドセルは日本独自のものですよね。

野村
そうです。鞄については土屋鞄以外の工房でも技術的に遜色ないものはできるかもしれませんが、ランドセルに関しては、他社ではつくれない、実現できないものを作り続けていると思っています。大人ランドセルは、そういう土屋鞄のランドセルで培った技術や経験を総動員して開発した商品です。

貞清
日本独自の鞄であるランドセルが土屋鞄さんのものづくりの中心にあるというのは、とてもユニークですね。humのジュエリーも日本的な製法でつくっているんです。金属加工には鍛金、鋳金などいろいろな技法がありますが、humはおもに彫金で製作しています。タガネやヤスリを使って金属を引きながら加工します。ヨーロッパは鍛金がメイン。鍛金は「押す」技術です。よく刀と剣の違いは引いて切るのか押して切るのかにあるといいますが、ジュエリーにもそういう違いがあります。

革職人

リングの製作過程

インタビュー

フルオーダーのシルバーサンプル

部分が全体につながる


貞清
野村さんのふだんのお仕事はランドセルづくりなのでしょうか。

野村
いまはサンプル製作がメインです。デザイナーがあげてきた図面からプロトタイプを作り、「これだと切れてしまう」とか、「この部分は開くから強度を持たせないといけない」とか、実際にサンプルを作ってみることで浮かび上がる構造的な問題点を洗いだします。なるべくデザイナーの希望に添うかたちでそこを解消させる方法を考えつつ、職人たちとも相談しながら、工程に対応するための落としどころを探っていきます。

 サンプルの製作チームは4、5名でぼくが一番若輩だったのですが、最近になってようやく一人、後輩ができました。いまはその子を育てたいなと思っていますね。

貞清
後輩の育成は大きな課題ですよね。野村さん自身は先輩方にどう教わったのでしょうか。

野村
手取り足取り教えてもらうというのではなく、とにかく一緒に作業をしました。もちろんサンプルをつくるのですが、そのときに1個じゃなくて2個つくる。つまり自分の練習用に、同時進行で作っていくんです。あとはとにかく時間をつくって自主練習ですね。

 とはいえ、ぼくも最初からサンプルづくりをできていたわけではありません。入社して10年ほど経つのですが、5年目くらいからサンプルをつくるようになりました。それまでだと、ランドセルの革に目打ちする作業だけを一日中やるとか、分業での仕事をきっちりとやっています。部分的な仕事ばかりになると、それが全体につながることがわからなくなるかもしれませんが、目の前の仕事にしっかり向き合ってがんばっていると、まわりの人たちはちゃんとその仕事振りを見ていてくれるので、「きみ早いからこっちもやってよ」となって仕事が増えていく。小さなことをしっかり積み重ねることで、やれること、任せてもらえることが広がっていきます。

貞清
ジュエリーも同じで、小さい行程がつながるんですよね。最初は別々なんですけど、ある段階を越えるとそれがバッとつながって、つくれるようになる。そういう感覚が、何年も続けているとふっとわかるようになる。それは自分だけのものじゃなくて、たとえばいまアトリエで一緒に働いてもらっている若い職人さんがそういう感覚をつかんだことが、側で見ていてわかる時があるんです。具体的には製作のスピードとして現れて、クオリティは保ったまま、仕上がりまでの時間が全然違ってきたりするんです。縁があってhumに入ってきてくれて7、8年と続けていくなかで、仕事ができるようになって、もう少しすれば独立してもやっていけるという人を見ていると、ほんとうにすごくうれしい。



お客様に向き合う丁寧なものづくり


野村
今後のビジョンについて教えてもらえますか。

貞清
ビジョンというほど大げさなものではありませんが、細く長く、続けていきたいです。それはこのサイズ感の仕事をぼくじゃない人がやってくれるといいなと考えているからです。たとえばリモデルのお仕事では、祖父母やご両親が使われていたものを新しく仕立て直してほしい、というご要望が多いのですが、リモデルするよりもメンテナンスしてそのまま使ったほうがいい、と思うジュエリーに出会うこともしばしばです。そういう時はお客様のご希望を聞いたうえで、傷んだ部分のお手入れやサイズ調整などをしてそのままお使いになることをお勧めする場合もあります。そういう関係性や仕事のあり方を大事にしたいんです。

 ぼくもお店をはじめる前は大きな工場で働いていたので、数をつくることのすごさは理解しているつもりです。でも、ぼくとしては、リモデルやフルオーダーのようなことを組織としてもっとやっていきたい。そのためにはひとりでジュエリーを製作できる職人を育成することは不可欠です。そうなるとどうしても小さな組織のほうがやりやすい。そしてそのスタイルは、なによりぼくらhumにとても合っている気がしています。


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hum
代表である職人の貞清智宏とデザイナーの稲沼由香が二人で始めたジュエリーブランド。ジュエリーはすべて手づくり。フルオーダーはもちろん、リモデル、リペアの依頼も受けつけている。直営店は都内に2ヶ所、大阪に1ヶ所(下記情報参照)。商品情報も含め、詳しくは公式サイトにて。
http://www.hum-est.com/



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