1. 嶋谷 吉彦さん 嶋谷 潤
インタビュー生きた時間、生きている時間。家族の時を繋ぐ時計。

嶋谷 潤
土屋鞄の店舗スタッフ。様々な地域で店長を経験。製品愛の深さと爽やかな笑顔が印象的。
嶋谷 吉彦さん
嶋谷のお父さま。時計の修理が趣味で、たくさんの古い時計を持つ。
退職を機に、これからより本格的に修理を教わる予定。
インタビューお父さまの手元。1935年以降に製造されたロレックス・バブルバック。
当時の文字盤に似た、落ち着いた蛍光塗料の文字盤に取り替え、使用している。


時間というものは不思議だ。私たちはその中に生まれ、成長し、老いていく。何かが変化していくことで、時間の存在を知る。時計は目には見えない時間を可視化させ、そこに時間が「ある」ということを知らせてくれる。 土屋鞄の店舗スタッフとして働く嶋谷のお父さまは、趣味で時計の修理をしている。修理の面白さを聞くと「例えば、100年前の時計は100年前の時間を刻んでいた。それを再び動かして使うということは、100年前の時間を共有することになる。そこに夢を感じるというか……なんだか惹かれるんです。だから動かなくなった時計を動かすというところに、喜びを感じるんです」という言葉が返ってきた。

その時見せてくれたのは、嶋谷のおじいさまが身につけていたロレックス。1935年頃製造された自動巻きが出た初期のものだという。戦争に持っていった際に水が入り文字盤がふやけてしまっていたが、当時のデザインに似たものに取り替えて使用している。「人は亡くなってしまっても、時計は父が生きていた頃のままこうして動いている。姿は見えないけれど、その時間を共有できていると思うと、感慨深いですね」とお父さま。61歳で亡くなったため、嶋谷はおじいさまの記憶がない。でもその時計があることで彼の生きていた時間と今との繋がりを意識することができるのだ。いつか嶋谷が譲りうけることになったら、3代に渡って時間を繋ぐことになる。それはもうただの「モノ」ではなく、家族の歴史そのものであるかもしれない。
インタビュー下 : 嶋谷が愛用中の1940年代製造ロレックス・クロノグラフ。
華奢なクロノグラフ秒針と文字盤が気に入っているポイント。


嶋谷も、年を重ねアンティークの時計に興味を持つようになった。「華奢なクロノグラフ秒針や上品な文字盤は、他ではなかなか出会えないデザインですし、ベルトを替えたり修理を重ねれば、長く使っていくことができます」と語る。今は誕生日に譲り受けたという1940年代製造のロレックス・クロノグラフを使用している。こちらもお父さまを介して再び時を刻むようになったもの。年を重ねていくほどに馴染んで、より似合うようになるだろう。 お父さまは退職を機に、時計の修理を本格的にはじめようと考えているそうだ。これからも嶋谷家には続々と古い時計が集まるに違いない。ちなみに今回、ふたりを取材した際の音源を聞き返したところ、時計の秒針の音が常にしっかりと入っていた。もしかしたら、秒針の音を通して嶋谷のおじいさまも語りかけていたのかもしれない。目には見えないが、家族の時間がそこには着実に刻まれている。

(2015年10月)
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