1. 革工房 レーデルオガワ
コードバンタンナーコードバン

革のダイヤモンドと称される馬革、コードバン。手にして納得、艶やかで透明感あふれるその美しさに惚れ惚れしてしまう。コードバンの原皮は、馬の中でも現在は数が少ない農耕馬の臀部(尻)からしか採れない。さらに加工がとても難しく、国内でも限られたタンナーしか手がけることができない希少性の高い革でもある。美しいコードバンがどのように生産されているのか、その貴重な様子を見に、土屋鞄のコードバンシリーズの革を加工する工房のもとへ向かった。

コードバン


タンナー コードバン

入口のところに置かれていたのは、馬の「皮」を鞣し、約2ヶ月間乾燥させて熟成させた革。工房での最初の作業は、この革に再度オイルを加えること。
「再加油の工程は、とても重要なんです。ここでちゃんとオイルを含ませていないと、最後の磨きの工程で艶がでなくなってしまいます。オイルに漬けるのは、1枚につき約3〜4分。この加減は職人の感覚ですね」

オイルに漬けた革を、へらのような道具とお湯で平らに伸ばしていく。単純な作業に見えるが、手の感覚や力の入れ具合が出来を左右する、集中力が必要な工程。腕が上がらなくなるほどきつく、力を使う作業だ。乾燥していた革は目を覚ますように、しだいにしなやかに。オイルが加わることで、柔軟性が高まっていくという。

コードバン


タンナー コードバン

工房にうかがう前、道路からもちらっと見えており気になっていた屋上。工房の屋上では、再加油の工程を経た革が運ばれ、所狭しとたくさんの革が干されている。この日は50枚ほど干されていた。見慣れない、とても不思議な光景。これが馬の革だということは、外からたまたま見かけた方はおそらく気がつかないだろう。

このように外に干しているのには、理由がある。外気に触れさせながら乾燥させることで、革に独特の締まりが生まれるのだという。単に革を乾燥させるだけならばヒーターでもよさそうと思ってしまうが、「適度な水分」を革に残すことが質感を保つ上で重要。ヒーター乾燥だと、水分がすべて抜けて革ががちがちになってしまうそう。時間がかかってもすべて自然乾燥させているのは、そのためだ。

タンナー

コードバンの表面となる「コードバン層」と呼ばれる層は、最初から表に出ているのではなく革のなかに隠れている。それを削り出して「発掘」しなければならない。そのためには機械を足で操作しながらペーパーがけを行い、コードバン層を露出させていく。
ここで革を削りすぎてしまうと当然その革は使いものにならなくなってしまうため、この工程にはいっそうの緊張感が漂う。職人の方いわく、革を引っ張る機械の力が強いため、ちゃんと踏ん張っていないと体が持っていかれてしまうという。姿勢を保つのが大変ななか、目の前のキャリアを積んだ職人の方は、1枚1枚正確かつ手早く作業を進めている。

「コードバン層が見えると、透明感が出てくるんです。その革の様子を覚えておいて、それに対していま目の前の革がどのくらい曇っているか、で判断しながら削っています」
機械ではできない、まさに職人の目だけが頼りの熟練の技だ。

コードバン層が表面にでた革は、触ると滑らかでしっとり。このなんともいえない感触は、どう表現したら正しく伝わるのだろうと思わず考えてしまうような、もっちりと吸いつく質感。これがほかの革では味わえない、コードバンの魅力でもある。

コードバン タンナー

「グレージング」と呼ばれる艶出し加工を、仕上げに行う。機械の先端についた瑪瑙(めのう。硬質な石)で摩擦し、その摩擦熱でコードバンを焼くように磨いていく。縦に林立しているコードバンの繊維を、瑪瑙で横に寝かしつけているという。
グレージングの様子を見ていると、目の前であっという間に美しい艶をまとった革へと変化。磨くことで、ここまで艶が出るということに驚く。グレージングが完了した革を触ると、かなり熱い。
「これくらい熱を出さないと、この色と艶が出ないんです。革には相当な圧がかかっているんですよ」
瑪瑙のついた機械は、足元のペダルで強さを調整。強く踏み過ぎると、焦げてしまう。かといって弱いと、もやっとした仕上がりに。革の乾き具合や状態によって、力加減を変えている。
「長く続けていると、この革は乾燥肌だなとか、これはオイリーだなってわかるんですよ。1枚1枚、みんな違う表情なんです」
何人もの職人の手を経てここまでたどり着いた革に愛情を注ぐように、ていねいに磨き上げる。その様子は、このあとの同社の別工房で行う染め工程へ送り出すための、最後の対話のようにも見えた。

「馬の革も人の肌と同じ。手をかければかけるだけ、きれいになるんですよ」

コードバン

今回案内してくださった取締役の飛田英樹さんは、磨かれた革を手にコードバンへの想いを教えてくださった。
「いいもの、納得いくものをつくりたい。はじめて完成した革を見たときに、きれいで感動したんです。革をつくる工程は、手間も時間もかかるとても大変な作業。最初から最後までばしっと決まらないと、いいものはつくれません。完成した革は、あらゆる職人のすべての技術が集約しているんです」



有限会社レーデルオガワ
取材時期:2015年4月

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