1. ツバメノート / ものづくりを訪ねる

グレーの表紙が目印の、どこか懐かしさが漂う「大学ノート」。一度は見かけたことがあるのではないだろうか。定番のノート、と多くのひとに認識される存在感に、分野は違えどものづくりをする会社として惹きつけられる。このノートをつくるのは、東京・浅草橋にあるツバメノート。専務取締役としてノートの企画制作に携わる渡邉精二さんに、ツバメノートのものづくりについてお話をうかがった。

「ツバメノートといえば、質を追求した用紙と罫引き。どちらも譲れません」

本文用紙の紙質の違いでノートを選んだことはあったが、正直罫線には意識を向けたことがなかった。そんな主観もあり、罫引きに興味を惹かれた。罫引きとは、本文用紙に印刷ではなく水性インクで罫線を実際に引いて(書いて)いく手法のこと。手間もコストもかかる罫引きは、いまでは途絶えかかっている手法だ。他社製の一般的なノートは、オフセット印刷で罫線を引いている。おそらく、皆さんがお使いの罫線入りのノートの多くは、オフセット印刷によるものだと思う。

オフセット印刷の罫線と、どう違うのか。
オフセット印刷は油性インクのため、紙に染み込まずに罫線がわずかに盛り上がった状態に。罫引きは水性インクのため、紙に染み込んでひっかかりがない。また、万年筆や水性のペンで書いた際にインクを弾かないため、なめらかな書き味を楽しめる。また、よく見ると線に強弱がついているところも。それがまた、味わい深くもある。

「ツバメノートでは罫引きはこれからも続けたい、変えたくないですね。一度生産の事情があってやむを得ずオフセット印刷に切り替えたことがあったんですが、お客様から問い合わせが何件もありました。罫引きのノートだからこそ使ってくださっている、たくさんのお客様に支えられています」

ツバメノートの本文用紙の罫引きを行っている東京・台東区の井口罫引所で、作業の様子を見学させていただいた。罫引きの機械は、約50年前に導入したというややアナログな印象。「線を引く」という言葉そのままに、ひたすら紙に線が一斉に引かれていく。線は一方向にしか引けないため、方眼の場合は一度線を引いた紙を90度向きを変えてセットし直し、もう一度線を引く。

紙のセットやインクの補充、罫線のチェックなど、すべて井口罫引所の井口博司さんがおひとりで担っている。日本ではもう数軒しかやることができない罫引き。井口さんはツバメノートにとっても、生命線である。



いま使っている手元のツバメノートを開いて見て、東京のこの場所で生まれた線なのか、となんだか感慨深い。ノートのような量産品にも、これだけ「ひとの手」が近くまで及んでつくられていることを目の当たりにして驚いた。ものがつくられる過程や背景を知ることは、何を選ぶかを考えるときの有益な情報になる。そして、思いもよらない細部にも、つくり手のこだわりがあることを知ると視野が広がるように思う。

ツバメノートの製品ラインナップを見ると、クラシカルな大学ノートのほかにちょっと変わったノートも揃っている。企画を担当している渡邉さんは、ご自身が趣味を楽しむときも何か製品づくりの役に立つことはあるかな、と常に思ってしまうという。短歌や俳句を書くことができる縦書きの俳句用ノートや、ダンスの練習の様子を記録できるノートの誕生は、渡邉さんの経験からアイデアが生まれた。

「俳句は十数年やっていて、よく売られている1冊600円以上する俳句帳はそれはそれで良いのですが、求めやすい価格で気兼ねなく少しでもいっぱい書きたいじゃないですか。だから、150円ほどに価格を抑えたノート(A6 立太罫という製品)をつくったんです」
求めるひとがいればつくりたくて、と渡邉さんは言う。

「自分が“あ、いいな”と思うものは、ほかのひとだって10人いれば半分はいるだろうと。100%というのはありえない。50%いれば、企業としてはペイできるという考えがあります。商売っていうのは決断だよね。やるかやらないか」

実際に売れるか売れないかは、わからない。しかし、必要だというひとが目の前にいて、おもしろいと思ったなら実現に向けてすぐに動き出したい。ものはタイミングだからね、と教えてくれた。

ツバメノートは昔、オイルショックによる原材料高騰がきっかけで、好評だった製品の販売を中止したことがある。その後復活しないでいたら、他社から同じようなアイデアの製品が発売された。このときに、ものづくりにおける決断力の大切さを実感したという。いいなと思ったアイデアや必要だと思うことは、すぐに実行する。そこには「それを必要としているひとたちのために」という想いがまずある。

渡邉さんが「ツバメノートの製品」として大事にしているのは、ツバメノートらしい伝統を踏まえた製品をつくること。過去に、色使いを派手にしすぎたり要素を盛り込み過ぎてツバメノートらしさを失ってしまった製品があったという。
「華やかでいいだろう、って自分の想いだけでつくったら失敗してね」 きっかけやタイミングよく、求める相手にいかに喜んでもらえるか。自分だけが喜ぶ製品ではだめ。現在76歳の渡邉さんがこれまでに培ってきた幾多もの経験が、ツバメノートの新たな製品へ生かされている。

「ツバメノートらしさ」の実現は、もちろん企画やデザイン面だけではない。ツバメノートとして求める品質を保つ製紙工場や井口さんのような技術者、たくさんの力で支えられていることを、お話のなかから実感した。
「ひとつの製品をつくり上げるには、絶対にひとりじゃできない。いろんな方の力があって、出来上がる。そのなかで“こうしたい”と自分の意志を伝えることができないとね」

(写真:罫引きの機械の前で。左が井口罫引所の井口博司さん、右がツバメノートの渡邉精二さん)



ツバメノート
東京都台東区浅草橋5-4-1
TEL 03-3862-8341
url. http://www.tsubamenote.co.jp/

2015年4月に取材

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