1. 今日のコラム/活版印刷のこと
活版

職人の手仕事によって、革製品をつくる土屋鞄。分野は同じでなくとも、ものをつくることや製品に対する想いに対して共感することに、日々たくさん出会います。ものづくりにまつわる日本各地の出来事や、古くから伝わる日本の美意識、お話をうかがってみたいと心惹かれる方についてなど。今日のコラムでは、土屋鞄のスタッフが共感し、多くの方と共有したい話題についてお届けします。

活版

文字に体温を宿す、活版印刷。


THURSDAY, 27 NOVEMBER 2014

毎日たくさん見ているであろう、印刷された文字。いまはパソコンとプリンターで制作できますが、長い歴史からするとそれはごく最近のこと。文字の印刷には、長い間「活版印刷」が活躍していました。土屋鞄ではカタログやはがきなど印刷物をつくる際に、できるだけわたしたちが届けたい想いが伝わる方法がないか、いろんな面から探っています。そのなかのひとつのヒントとして昔ながらの活版印刷に興味をもち、東京・印刷博物館で行われている体験講座に参加してきました。自ら力を加えて、文字を印刷する不思議な感触。そして日本語の美しさをあらためて感じられた体験でした。その様子を、少しご紹介します。

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活版印刷とは、活字を組んで並べた版を使って印刷する手法です。いまから40〜50年前までは、印刷現場では当たり前のように使われていたとのこと。活版印刷のことは、知識としてはおおよそ知っているつもりでした。しかし実際に活字が並べられた活字棚を目の前にすると、いったいどうやって作業していたのか、デジタルの時代しか経験がない者にとっては、当時の様子がうまく想像できません。

活版


印刷


たくさんの活字のなかから「文字を拾う」

体験講座のおおまかな流れは、まずは活版の歴史や使用する道具についてのレクチャー。そのあとに、印刷したいことばに合わせて活字を用意し、実際に手動の機械を使って印刷します。

今回の体験を通していちばん興味深かったのが、使用する活字を探し出して手元に集める「文選(ぶんせん)」という作業。新聞や本をつくるとき、現在ではパソコンで文字を入力したり文字詰めを行えます。しかし活版印刷が全盛だった時代は、まずは「文字を拾う」という文選作業が発生します。印刷物に使う文字のすべてを、まずは自力で拾って原稿通りに並べなければなりません。
1文字拾うのに費やす時間は、3秒。当時の作業現場では、活字は原則部首ごとに棚に配置していたそうです。そしてよく使う漢字は手の届きやすいところに並べ、効率よく作業するための工夫がされていたとのこと。スピードと正確さが求められる作業。まさに専門職です。体験講座で指導してくださるインストラクターのなかには、実際に文選職人として働いていた方も。この日は、約20年にわたり文選の仕事に携わっていた方が、手伝ってくださいました。
体験講座用の活字棚は、一般の方が探しやすいように五十音順で並んでいます。実際にやってみると、とても1文字3秒では拾えません。わずか10文字ほどを拾うだけでも、何分もかかってしまいました。

1冊の本に使う活字は、莫大な数になります。一度使った活字は、活字棚には戻さず、溶かして次につくる活字の材料にしていたとのこと。たしかに、1文字ずつ戻していると、それだけで時間がかかって大変な作業になってしまいます。こんなに繊細につくられた活字が消耗品ということも、はじめて知りました。(ただ、小規模の印刷会社では一度使った活字を何度も使うために、がんばって棚に戻していたところもあったそうです。)

ものづくり


印刷


余白にも、ひとの手が加わっている

自分の手で直接文字に触れ、向き合いながら文章を組んだことで、日本語の美しさや表情の豊かさにあらためて気づかされました。ひらがなは丸みがあって柔らかく、カタカナは少々硬め。漢字は画数や形がさまざまで絵のようにも見えます。毎日たくさん文字を目にしているはずなのに、まったく意識していませんでした。日本語は、いろんな種類が組み合わさるからこそ、独特で美しい。

また、余白や間をつくるための道具がある、ということも、現在とは感覚が違う点でした。文字を並べない余白や行間部分、文字と文字の間に細かな空きをつくるために、活字より低い板を挟んで物理的に埋めています。パソコンで作業すると、余白は何も触れない部分。しかし活版印刷の場合は、そこにもひとの手が加わっています。印刷された紙面上には何もないけれど、つくりだした余白や間が「ある」という。今回の体験で使用した版は、余白部分はあらかじめ埋められた状態でしたが、その部分も大きな存在感を放っていました。

活版
活版


印刷


ものづくり


使う文字を選んで、ガシャンと印刷機で印字する、という一連の作業を通して出来上がった制作物には、自分の込めた力が介在しているということが実感できます。ぐっと力を込めて圧をかけ、紙に文字を印字する。その力加減で、文字の刷り上がりが微妙に変化。文字が紙の上に現れたとき、1文字1文字に自分の体温が宿っているかのような感覚がありました。 デジタルの時代を過ごすわたしたちにとって、活版印刷は非日常的な体験だったからこそ、そう感じたのかもしれません。それでも、文字を紡いで何かを伝えようとするということに、昔の方はいまよりも重みを感じていたのではないか、と思えました。


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無料公開講座に関する詳細情報・お問い合わせはこちらへ。(無料公開講座は、毎回先着順での受付です)

印刷博物館
東京都文京区水道1-3-3 トッパン小石川ビル
TEL:03-5840-2300(代)
http://www.printing-museum.org/

今回参加した無料公開講座「つくるコース」詳細
(取材時はしおりを制作しましたが、季節によって制作物は異なります。また、制作物によっては欧文の場合もあります)
http://www.printing-museum.org/bottega/index.html



取材時期:2014年10月
掲載:2014年11月27日

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