1. No.25 越えたい人

革職人

コツコツつくって50余年の工房を、ウロウロとしてみます。
つくる職人、使う道具、できあがったものに近づいたり離れたりしながら、工房の音や声、匂いを綴るコラムのような、ちょっとしたよもやま話です。

工房

2014/04/15

越えたい人

ビジネスバッグをつくる職人の手に、白と黒の対照的な「ヘラ」が2本。20代に厳しい修行を積んだ工房で当時の親方からもらった白いヘラは、日々の作業で先が短くなりました。「だいぶ長いこと使ってきたからね。そろそろ新しくしようかと思って」。そう言って取り出した、未完成のヘラ。

自分の道具を新しくつくる理由は、白いヘラが古びたからだけでなく、遥かに遠かった親方の後ろ姿が近づいたからなのかもしれません。何年も糊を塗って、鋲を打って。そんな地道な下仕事の日々を重ねて、今ではサンプルから量産まで、後輩を率いる職人になりました。

師匠の道具でその背中を追いかけ、自分の道具で歩き出す日がくる。美しいビジネスバッグを仕上げるこの職人の何気ない道具の変化に、職人の成長の分岐点を感じました。新しい黒いヘラが出来るころには、今度は自分の背中を追ってくる若手の足音が聞こえるはずです。


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