EPISODE 3
珈琲を楽しむ、ふたりの時間
あたりを見渡せる高台のウッドデッキに出ると、木漏れ日が降り注ぎ、風が心地よく吹き抜けていきます。たくさんの人たちが訪れ賑やかに過ごすこの場所で、お気に入りの物に囲まれて暮らしている斉藤さんご夫妻。淹れたての珈琲をゆっくり味わいながら、おふたりのお話を伺いました。
斉藤建治さん
斉藤裕子さん
幼いころから木工が得意で、今も作品を作り続けている建治さんと、染織の「工房タブリエ」主宰、織歴は45年になる裕子さん。ともに、もの作りを楽しんでいるおふたりのご自宅で、まず目に入ってくるのが裕子さんの織機。学生時代に足を運んだ展覧会で、すっかり機織りの世界に魅了されて以来「いつも身近に置いておきたい」という思いから、ずっと一緒に過ごしてきたそうです。
「布が好き」という裕子さんが、作品を作るときにまず考えるのが、色や素材を生かすこと。「この色はどうすれば映えるか、どうしたら面白いかな」と思いを巡らせます。
それに対して、建治さんの物作りは機能性重視。見た目も力強く、まさに質実剛健。「すぐに壊れるものは作りたくないから、構造にもこだわって工夫するよ。それで、こんなのができたぞ、すごいだろって(笑)」と木工好きの少年だった頃の面影たっぷりに語ってくれました。
裕子さんがギャラリーで展示を行うときに、会場の設営で大忙しなのは、なんと建治さん。「いいように使われちゃってるんだよ」と口にしながらも、優しさが見え隠れしていました。自宅の入口にさりげなく掛けられている工房名のボードも、建治さんのお手製です。
「夫婦でなんでも一緒に、っていう夫婦じゃないのよ、むしろバラバラ」と裕子さん。
「基本的には、それぞれに好きなことをやっていましょうよって感じかな」と建治さん。
そんなおふたりが、たまにはゆっくり話でも、というときに傍らにあるのが珈琲。淹れたての珈琲にミルクを入れたり、自分の好きなスタイルで。話すことはさまざまで、天気のいい日はウッドデッキに出てのんびりと。
目に入ってくる家具や器は、ほとんどが旅先で一目惚れして購入してきたもの。
リビングで存在感を放つ一枚板のテーブルは伊豆高原で、睡蓮鉢に穴をあけて、バーベキューで使えるようにアレンジした鉢は、八ヶ岳で。「そうそう、あのときはこんなに大きいの車に載らないぞ、って怒られて……」と思い出がひとつひとつ蘇ります。
裕子さんがものを選ぶときの基準や、もの作りについて「普通のものは好きじゃないんだよね。ちょっとひねったものや、変わったものが好きなんだ。だから僕も選ばれたのかなぁ」と建治さん。ユーモアに溢れ、ダンディーで気さくな建治さんと、明るく朗らか、でもしっかりとした軸を感じさせる裕子さん。テンポよく進むおふたりの話を聞いていると、長く連れ添ったふたりならではの温かい空気を感じます。
今年、結婚して44年を迎えるおふたり。どんな関係ですかと尋ねると「彼女の頭の回転の速さや記憶力の良さに接すると、こっちも負けていられないと思うんだ。ライバルのような関係かな」と建治さん。いつまでもライバル、そう思えるって素敵な関係です。
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