鞄と革の用語辞典 -革の加工-

【オイルレザー】
Oiled leather

鞣しただけの革をそのまま使うと、固かったり、手触りが悪かったり、乾燥してひびが入りやすかったりします。そこで革の製造の際には、柔軟性やソフトな触感を与え、保存性や耐久性を高めるために、油分を適度に含ませる工程を入れます。これを「加脂」といい、製造途中の革とオイルをドラムに入れて撹拌(かくはん)し、油脂を効率よく浸み込ませる方法が一般的です。

この加脂の工程で、他の革よりかなり多くの油脂を添加したものを、特に「オイルレザー」と呼んでいます。例えば、土屋鞄の「オイルヌメ革」では通常の3倍のオイルを加えており、柔軟性としっとりとした触感、味わい深い風合いを獲得しています。なお使われるオイルにはひまし油や菜種油などの植物油、牛脚油や羊毛脂、魚油などの動物油、及び石油系オイルや合成オイルがあり、それらを適宜ブレンドして使用します。

【型押し】
Embossing

加熱した金属の版型を高圧プレスすることで、革の表面にさまざまな図柄やパターンを刻印する加工を「型押し」といい、大きく分けて2通りあります。一つは、ワニや蛇・トカゲなどの爬虫類のウロコ模様や、オーストリッチ(ダチョウ)の羽毛痕など、他の素材の表面に似せたもの。もう一つは、格子模様のような幾何学的パターンや、シワやシボなど、細かな模様を刻み付けるものです。

型押しは革の表現力を増す加工方法で、専門の工房があるほど高度な技術を要します。また爬虫類やオーストリッチの型押しは現在では非常に精巧で美しいものができるようになっているため、代替品などではなく、独自の価値を確立しています。また細かなパターンの型押しは、元々革にあった傷を隠すと同時に、新しい傷が付きにくくなる効果も期待して行われます。

【空打ち】
Milling

「空(から)打ち」は「ミリング」ともいい、革の線維をほぐして柔らかくしたり、革に自然なシワやシボを付けたりするために行われる加工の一つです。革を、ドラムまたは太鼓と呼ばれる巨大な樽状の回転器の中に単独で入れ、中で回転させることで革を揉みほぐします。1回の撹拌(かくはん)時間は素材・目的によってさまざまですが、10~24時間くらいが多いようです。

空打ちされた革は線維がほぐされているので、しなやかで手触りが優しくなります。また、表面に自然なシワやシボが付き、表情豊かな革が出来上がるのが特徴です。シュリンクレザーとの違いは革が縮んでいないことで、ふんわりとした印象に仕上がります。土屋鞄では「トーンオイルヌメ」シリーズの「オイルヌメ革」や、「クラルテ」シリーズの「フィールドソフトレザー」などが、空打ちされている革の代表格です。

【シュリンクレザー】
Shrunk leather

特殊な薬品と熱を使って革の銀面を収縮させ、シボが寄るよう加工した革を「シュリンクレザー」と呼んでいます。土屋鞄では「ノワイエット」シリーズに使われている革がそれです。よく似た外見の革には、空打ちでシボをつけた革や手作業で揉みシワを付けた「揉み革」、シワ模様の型押し革などがありますが、シュリンクレザーは革を収縮しているため、それらよりも革質が締まっていて、線維の密度が高くなっています。

シュリンクレザーは、縮んでシボができるおかげで、元々革に付いていたバラ傷やシワ・血筋が目立たなくなります。同時に、革の種類や使っている身体の部位によってシワの大きさや深さなどが変化するため、独特の豊かな表情を楽しむことができます。また、細かなシボ模様があるため、傷が比較的目立ちにくくなっているのも特徴です。

【スムースレザー】
Smooth leather

型押しや起毛、シュリンクなどといった、銀面に凹凸のある革に対し、銀面を滑らかにならした革を「スムースレザー(Smooth leather)」と呼びます。但し、フィルム加工やエナメル加工などによって滑らかにしたものは、通常、スムースレザーとは呼びません。なお「スムーズ」と濁る方が英語の発音により近い呼び方ですが「スムース」と濁らない表記の方が多いようです。

革には元々、表面に微妙な凹凸やバラ傷・シワがあるため、きちんと滑らかにするためには加工が必要です。例えば「アイロン」という大きな金属プレートで熱を加えながらプレスする手法や、グレージングといって、革の表面に硬いメノウの玉を強く押し付けながら動かし、つるつるに仕上げる手法があります。後者の場合、滑らかにしながら透明感のある光沢が付くので、コードバンの仕上げなどにも用いられます。

【ヌメ革】
Case leather/ Vegetable tanned leather

素朴でナチュラルな風合いで、最も革らしい革といわれるのが「ヌメ革」です。本来は植物の渋だけで鞣され、型押しのような表面加工や染色をしない、生のままの色(白色か極めて薄い黄褐色)と表情を見せる滑らかな革を指しました。現在では、タンニン(植物の渋や合成タンニン)を中心に使って鞣され、染色を施されたものも合わせて、広く「ヌメ革」と呼ばれています。土屋鞄では、ナチュラルな風合いで表面がスムース調のものを広く「ヌメ革」としており、「ナチューラ」シリーズや「マグナス」シリーズの革が該当します。

「ヌメ革」は最も古くからつくられてきた革で、ナチュラルな風合いと、バラ傷やシワ・血筋などの自然な表情をそのまま楽しむことができます。最大の特徴は、使うほどに風合いが味わい深く変化していくエイジング。特に薄い色は変化が大きいため、人気があります。なお、ヌメ革の「ヌメ」は、表面が滑らかな状態を表す「滑(ぬめ)」からきているとされていますが、その語源ははっきりとは分かっていません。


次回のテーマは
「革の加工2」です。

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