「こんな遅くに、何してるの?」
「うん、婆ちゃんにね、ちょっとね・・・」

しんと、静まりかえった工房で、デッチの伊澤が一人黙々と図面と向き合っている。何をしているのかと近寄って覗いてみると、ハンドバッグらしい図面が描かれていた。

「伊澤くんが描いたの?」
「そうっす・・・」
「へぇ、誰かへ贈り物?」
「そうっす、婆ちゃんになんすけど・・・」

この夜、デッチ伊澤次郎がかなりのお婆ちゃん子だという事が判明した。

徳島県に住む福永和子さんは、デッチ伊澤次郎が愛するお婆ちゃん。8月14日で84歳になった。彼の話によると、お婆ちゃんはとても多趣味で活動的な人らしい。得意の俳句では自費出版も果たしているパワフルなお婆ちゃんなのだ。「でも、この間入院しちゃったんすよ。元気な人やったんに」と、伊澤はポツリ寂しそうに呟いた。元気で活発なお婆ちゃんが倒れたことは、離れて暮らす伊澤にはとてもショックで心配な出来事だった。
「早く元気になってもらわんと、困るんすよね」(笑)と照れ隠しのように彼は笑ったが、お婆ちゃん孝行しなくちゃと真剣に思っている彼の気持ちが静かに伝わってきた。
「工房に入ってからずっと、婆ちゃんにバッグを作るつもりでいたんすよ。もうすぐ誕生日だし、入院してから元気がないみたいだし。元気出して欲しいんすよ」と、図面から目を話さずに彼はゆっくりと話してくれた。

「ショルダーバッグが欲しいって言うんですけど、せっかくだからハンドバッグにもなるように持ち手を工夫するつもりっす。革は、贅沢にカーフを使おうかと思って、しかも白色で」
「へぇー、カーフかぁ。しかも白なんておしゃれだね」
※カーフ(生後6ヵ月までの子牛の革。高級素材の一つである)

この日から6日間、伊澤の居残り製作が続く事となった。時には心配そうに覗き込むベテラン職人。「伊澤くん、凝ったの作ってるじゃないか」と何だか嬉しそうに声をかけるベテラン職人の福田さん。工房の優しい時間だ。
「福田さん、どうもこのファスナーのところが上手くできないんすよ」
「あぁ、ここね。取り付けが難しい部分なんだよ」と、ベテラン職人のアドバイスにも熱がこもっていた。

そして8月13日の早朝、伊澤オリジナルのお婆ちゃんへ贈るバッグが完成した。白いカーフと茶の革が品よくまとまった素敵なバッグの中にお婆ちゃんへの気持ちを一杯に詰めて、寝不足の伊澤は実家のある徳島へと帰省して行った。


「伊澤くん、おばあちゃん喜んでくれた?」
と、夏休みが明けるとすぐに私は聞いてみた。
「いやー、喜んでくれたんすけどね・・・」と口ごもる伊澤。
「なに?どうしたの?」
「内側のポケットが足りんって、もっとしゃんと作りよーって言われちゃいました」と、ちょっと苦笑いしながら彼は呟いた。
「でもまた作ってあげたいと思います。今度はもっとすごいの作って、婆ちゃんにもっと褒めてもらいたいっす。リベンジっすよ」(笑)

嬉しさで胸がいっぱいだったはずのお婆ちゃんだが、きっと
ちょっと照れくさくて思わず注文をつけてしまったのだろう。「よーできとんなー」となかなか口に出せない、照れ屋のお婆ちゃんが目に浮かぶようだった。大好きなお婆ちゃんに手作りのバッグを贈ってあげられる彼がとても羨ましく思えた。そして、やっぱり職人さんて素敵だなと実感した。


みなさんは、おばあちゃん子ですか?
それともおじいちゃん子ですか?


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