鞄と革の用語辞典 -革の加工2-

【エナメル革】
Enameled leather

革の表面にウレタンなどの合成樹脂塗料を繰り返し重ね塗りし、厚い皮膜をつくることで、非常に高い透明感と光沢を持たせた革素材。別名を「パテント・レザー(Patent leather)」といいます。19世紀に、アメリカのセス・ボイデン(Seth Boyden)が改良したものが好評を得て、広まりました。その美しい仕上がりからエレガントな印象があり、フォーマルなイメージの強い革です。

エナメルレザーは光沢が美しいだけでなく、表面に傷や汚れが付きにくいという特長があります。また厚い皮膜のため水にも強く、年月を経てもあまり色味や風合いが変わりません。なお、表面が樹脂に覆われているため、ゴムやビニールなどの石油系素材と長時間密着させると癒着を起こしたり、色を移されたりすることがあるので、保管には注意が必要です。

【グレージング】
Glazing

「グレージング(glazing)」は、革の表面につるつるとした滑らかさと光沢を与える仕上げの手法。アームの先端に硬い瑪瑙(めのう)やガラスの球が付いた「グレージング・マシン」と呼ばれる専用の機械を使い、革の表面に強い圧力と摩擦をかけて平滑にならします。土屋鞄で採用されている「水染めコードバン」の美しい光沢は、このグレージングによって得られたものです。

グレージングでは、革の表面にカゼインなどのたんぱく質系の仕上げ剤やワックスをあらかじめ塗布することによって、一層美しい光沢を生み出すことができます。また摩擦熱によって「焼け」味が付き、色むらのある味わい深い表情が加わることもあります。ウレタン塗料やラッカーなどで光沢を出す方法と違い、熟練の職人技によって、革本来の風合をあまり損なわずに艶を付ける加工です。

【スエード】
Suede

「スエード(suede)」は、革の床面をサンドペーパーなどで細かく毛羽立たせた「起毛革(きもうがわ)」という加工革の一種。土屋鞄では「トーンオイルヌメ」シリーズなどの鞄の内装に採用されています。本来のスエードは線維が極めて細かい子山羊の革だったそうですが、現在では同じく線維が細かい子牛や羊・ブタの革を加工したものが多いようです。なお、銀面のない床革でつくったものを、特に「床スエード」と呼んで区別します。

なお、起毛革(きもうがわ)には他にもいくつか種類があります。スエードと同じく革の床面を利用しながら、粗く毛羽立たせて毛足を太く長くしたのが「ベロア(velour)」。これらとは逆に、革の銀面をベルベット状に起毛したものは「ヌバック(nubuck)」と呼ばれ、スエードよりさらに毛足が短いため上品な風合いとなり、優しい手触りが人気となっています。

【染料・顔料】
Dyestuff and Pigment

革に色を付けるには、「染料」か「顔料」、もしくはその両方を使います。「染料」は革の銀層だけ、または芯にまで染み込ませて線維に色付けするもの。革と一緒にドラムに入れて撹拌したり、手塗りやスプレーで重ね塗りしたりなどします。一方「顔料」は、塗料のように革の表面をコーティングして着色するもので、スプレーで革の表面に吹き付けるのが一般的な方法です。

染料は、「アニリン染料」という透明感のあるものがよく使われます。革の表面にある自然な表情を隠さない上、革質に応じて多彩な色むらを生じるため、一枚一枚が非常に表情豊かに仕上がります。一方、顔料を使うとバラ傷血筋などを隠すことができ、色が鮮やかに乗って、表面が均一に近くなります。実際にはそれぞれの長所を考え、染料で革を染めたベースに、顔料でうっすらと仕上げの着色をすることも多いようです。

【ブライドルレザー】
Bridle leather

「ブライドルレザー(bridle leather)」とは、イギリスで馬具に用いられる伝統的な革素材で、土屋鞄では「ブライドル」シリーズに採用されています。植物タンニン鞣しされた牛革に「タロウ(tallow)」と呼ばれる特殊なロウや油脂を染み込ませたものです。もともと丈夫なタンニン鞣し革をロウでさらに強化しているので堅牢な革質となり、耐久性に優れるのが最大の特長。温度差によって表面に油脂が染み出ると、ブルーム(bloom)と呼ばれる白い粉が吹き出ることがあります。

ブライドルレザーは、何ヶ月もかけてベースの革をつくるタンニン鞣しを行い、できた革の表面にタロウを手作業で何回も繰り返し塗り込むなど、多くの手間と長い時間をかけて仕上げられます。そのため、現在でも希少で高価な革です。またじっくり時間を掛けて使い込んでいくと表面のロウが磨かれて美しい艶が生まれ、色合いも深く熟成してゆくので、革好きには人気の高い素材です。

【メッシュレザー】
Mesh leather/ Intrecciato(伊)

革をメッシュ状に編み込んだもの。イタリア語では「編む」を意味する「イントレチャーレ(intrecciare)」の過去分詞(受身形)である「イントレチャート(intrecciato)」と呼ばれています。これは元々、イタリア・ヴェネト地方の伝統技法である編み込み革のことを指す言葉として使われていたものですが、現在では日本でもその名称が知られるようになりました。

メッシュレザーには大きく2通りの手法があります。一般的によく見られるのは、大きなベースの革にスリットをミシン目のように等間隔に入れ、そこに短冊状の革を指し込んでメッシュ状に見せる手法。土屋鞄の「ニッティング」シリーズの革もこちらのものです。もう1つは、短冊状の革同士でまさしく「編み上げて」ゆく手法。いずれも固い革では編み込めないため、しなやかで、薄く漉いても切れない上質な革を必要とします。


次回のテーマは
「牛原皮の種類」です。

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